もう遅い
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
ん?ここはどこだ?暗いし狭いし、仰向けのまま身動きが取れない。
そうだ、俺は玄関の外のエントランスで転んで頭を打ったんだ。その後どうしたんだ?
ああそうだ、病院にいた事だけは思い出した。体中にケーブルか何かがくっついてた。
でもその機械は故障してるぞ。やたらと長い「ピー」って音しか鳴ってなかったぞ。
横にいた医者は何か言ってたな…。でも何を言っていたのか思い出せない。
あの日は何かがいつもと違ったんだ。
去年までどんなに寒くても凍った事なんかなかった玄関のエントランスが凍ってたんだ。まるで氷を敷き詰めたみたいだった。
確か、何か油の匂いもしていたな。でも凍ったエントランスに油をこぼしたままにしてるなんてあり得ない話だ。
そういえば、お前が作りたいと言っていた花壇に使うレンガが山積みになっていた。
しかも、エントランスを囲むように乱雑に積んであったもんだから、どこで頭を打ってもおかしくなかったんだぞ。これからは気を付けてくれよ。
一度転んだあとも、なぜか何度も頭をぶつけていた。でも、そんなに何度も俺は転んだのか?
そう。あの日の事は全て偶然の事故だったんだ。
妻よ。
年末ジャンボの1等が当たったのを、お前と二人で確認したよな。あの時は本当にうれしかった。
ただ、俺は知っていたんだ。お前が浮気している事を。
でも、あの金で俺たちはやり直せる。家のローンだって全部返せるし、子供たちにも援助できるんだ。
お前が言っていたモナコでもドバイでも、どこだって二人で行けるぞ。
息子よ。
お前が競馬やパチンコで作った借金は、きっとこれで全部返せるだろう。賭けてもいいぞ。
娘よ。
同棲しているあいつはまだ仕事をしてなかったな。まあいい。しばらくは援助できるから安心しろ。
ただし、あいつがまともな仕事を見つけるまでの間だけだぞ。いいな?
あれ?さっきまであんなに寒かったのに、何だか体が熱くなってきたぞ。いや、本当に焼けるように熱い。
誰か、早くここから出してくれ。今ならまだ間に合うんだ!
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