影渡る猫とミミズ
投稿者:繭 (42)
短編
2022/02/06
04:12
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今から二十年前、小学生の頃の不思議な体験です。
記録的な猛暑が続いた夏休みの事、その日私は近所の駄菓子屋でアイスを買って帰り道を歩いていました。建物やポスト、街路樹の影だけをちょこちょこ縫い歩いていると、行く手に続くアスファルトの路上に夥しいミミズが干乾びているのが目に入りました。
この世で一番ミミズが苦手な私は生理的嫌悪を催し、即座に回れ右しかけたのですが、その時に思いがけない事が起こりました。
「あっ!」
私の影からぴょんと飛び出た黒猫が、舗道で干乾びたミミズにとびかかり、次々と咥え始めたのです。
意味がわからずただただ呆然としている私をよそに、影から生まれた黒猫は素早くミミズを食べ終えると、満足そうに一声鳴いてまた影に吸い込まれていきました。
家に帰ってから両親や兄弟に先ほどの体験を訴えたのですが、誰も本気にしてくれませんでした。
ひょっとしたら私たちの影には、光の世界と影の世界を行き来する生き物が住み着いているのでしょうか?
そしてあらゆる物の影に巣食いながら、時にミミズを食い、好きなことをして生きているのでしょうか。
あれ以来道端でミミズが死んでいると、また影から猫が出てきやしないか身構えてしまうのでした。
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