山の主は怒っている
投稿者:誠二 (20)
子どもの頃祖父の田舎に帰省した時の出来事です。
当時手に負えないわんぱく坊主だった俺は、田舎の子どもたちと誘い合って野山を走り回り、澄んだ渓流で釣りや川遊びをして夏休みを満喫しました。
そして夏休み最後の週……東京に帰る前に特別な思い出を作りたくなった俺は、裏山に肝試しにいこうと提案しました。
ところが仲間たちは口をそろえて「行かない」というのです。
もちろん賛成してくれるだろうと思っていた俺はショックを受け、「なんで行かないのさ」と返しました。すると一様に「祟られるから行かない」と俯いてしまいます。
ここで大人しく諦めていればよかったのですが……もとより意地っ張りな性格故に引っ込みが付かなくなり、「じゃあいいよ」と開き直って一人で山に向かいました。
裏山に駆け込んだ瞬間冷たい風が吹いて、背筋を悪寒が駆け抜けました。
「じいちゃんばあちゃんも入っちゃだめって言ってたっけ」
今さら思い出しても後の祭りです。泣きたくなって立ち尽くせば、足元に何かが落ちていました。ただの石ころに見えましたが、よく見れば一部が剥げ、内側が玉虫色に輝いています。
「綺麗……」
記念に持って帰ろうと決めてポケットに突っ込んだ直後、凄まじい地鳴りが轟きました。よろめいてへたりこみ、恐ろしいものを目撃します。
「返せえええええええ」
地の底から響く不気味な声とともに、巨大な地虫に似て節くれた胴がうねり狂い、俺に迫ってきたのです。
「うわああああ!」
たった今拾った石を反射的に投げ返し、一目散に麓に逃げ帰りました。
俺が出会った異形の存在は山の主だったのでしょうか?
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