窓際が指定席の女
投稿者:誠二 (20)
短編
2022/01/30
13:49
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俺が学生時代暮らしていた地方都市の話です。
当時俺が行っていた大学の近くにアンティークな趣の喫茶店があり、毎日のようにその前を通っていました。
というのも喫茶店の窓際席に若く美しい女がおり、彼女に一目惚れしてしまったのです。
年の頃はハタチ前後、長い黒髪が横顔が隠していても整った目鼻立ちや涼しげな眼差しが印象に残りました。
しかしウブで奥手な俺は彼女に声をかける度胸もなく、煮え切らない気持ちを抱えたまま素通りするしかありません。
そんなある日、窓際の女と偶然目が合いました。緊張と羞恥で固まる俺に、彼女は薄っすら微笑みかけてくれました。
おめでたいものでこれは脈があると確信し、勢い任せに喫茶店に突入しました。
ところが窓に面したテーブル席には誰もおらず面食らいます。
「すいません、あそこに座っていた女性はどこでしょうか」
「誰もいませんよ」
そういえば……店の前を通るたび女を見かけていたのは事実ですが、飲み物を注文している形跡はありませんでした。テーブルにはお冷のコップさえなかったのです。
俺は一体何を見ていたのだろうか。彼女は何者だったんだろうか。
以来あの喫茶店には近付いていませんが、今でもまだ窓際席の前を通るたび視線を感じるのです。
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