丑三つ時の行進
投稿者:すだれ (27)
バンッ!バンッ!バンッ!
窓を叩く音は止まない。布団から飛び出し後退って気づいた。叩かれているのは目の前の窓だけじゃない。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
玄関。台所。風呂場。寝室。子供部屋。家中から音がする。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
大勢の、何十人もの何かが家を囲って、家中の窓を叩いている。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
叔父はどの窓からも遠い家の中央で毛布を握りしめ、一睡もできない夜を過ごしたらしい。窓は日が昇るまで延々と叩かれたそうだ。
「二度とあんな留守番はしたくない。金を積まれたってな」
むしろあの家で一晩過ごせるヤツがいたら賞金を出したっていい、と叔父はケラケラと笑いながら語った。
そんな体験してりゃ青ざめて飛び出すわ、むしろ自分たちが帰って来るまで留守番放棄しないで逃げなかったあたり律儀では?と酒を煽っていると、「玄関も叩かれたんだろ?俺らが外から玄関開けるまで怖くて出られなかったんだろうよ」と兄が小声で割り込んできた。
自分は聞いた事はなかったが、兄は例の夜の行進の音を度々聞いていたらしい。
母の「気にするな、気づいたと気づかせるな」という助言を受けて徹底して無視していたので窓を叩かれたことは無かったが。
あの時の2人の苦笑は叔父に対しての「ああ気づかれたのか」という顔だったのか、と今更に合点がいった。
「アレは悪いヤツなの?何で窓叩くの?家に用事があったの?」
「質問多いな」
「当時教えて貰えなかったし」
「教えるか。ガキの頃のお前、アレに気づいてたら無視できないだろ。今みたいに質問攻めだろ」
「それはそう。で?実際どうなのアレ」
「さあな。解釈の仕方なんて何通りでもあるだろ。ただああいうヤツらって感覚ズレてるというか、人と感性が違うというか、こっちの常識通じないから。何で窓叩いたのか、本当に寝れないくらいの恐怖を与えたくて窓叩いてたのか、今となっちゃわからないな。俺叩かれたことないし。叔父さんを家から追い出したかったのか、逆に叔父さんを守ろうと警告の意味で叩いてた可能性だってある」
「あの所業で守護霊の類の可能性が?賑やかすぎて引くわ」
それを聞いた兄は鼻で笑っていた。
元より会話やコミュニケーションが成り立つ相手なら叔父が怯えながら徹夜することも無かったのだから、その点は理解できていると捉えたのだろう。兄は笑うだけだった。
結局その家は留守番の事件の後すぐに引っ越した。
本土へ渡り十数年と経った今では家がどうなったかもわからない。
時期的に老朽化もしていて跡形もなく取り壊されてる可能性だってある。「まぁ、1つ言えるとしたら、」と兄はグラスをゆっくり回す。
「家が無くなったとしても、別の建物が建ったとしても、あの兵隊たちはあそこでずっと歩き続けるだろうよ」
面白かった!
そんな家に黙って留守番させる母と兄が一番怖いわ