丑三つ時の行進
投稿者:すだれ (27)
互いに気づかないのが一番だ、そういう存在とは、どうしても理解し合えないのだから。と、母は兄によく言っていたらしい。
まあ、普通の家ではなかったと。振り返っても思うのだ。小学校に就学した頃に住んでいた家は街から随分離れた山の中にあった。
平屋の一軒家は家族5人でも余る程広く、手作りのブランコが置けるほど大きい庭には池もある。
近隣には民家も無く街の騒音は届かないし、こちらがどれだけ騒ごうとどこにもその音は届かない。
子供心ながらに当時色々思うものはあった。
例えば小学校まで子供の足では2時間かかる通学路は遠すぎるとか。
山の高い所に建っていた家の庭から下を覗けば目に入った墓場がどうしても怖いとか。
時々勝手に開いている天袋の隙間が怖いとか。何でたまに廊下が水浸しなのとか。
いわゆる霊感のある母と兄が時折見つめている窓の外には何があるのとか。
借家であったから、そういう家賃に影響する不便さや景観やそれ以外の云々も大人は加味して物件を選んでたのかと今なら思う。
一家で本家へ向かう用事があったので母方の叔父に一晩の留守を頼んだ。叔父は快く了承した。
本家への顔出しを済ませ帰って来た時、叔父は真っ青な顔で「二度と留守番しない」と家を飛び出すように帰って行った。
当時の自分では叔父に何かあったのだろうとはわかっても何があったのかはわからなかった。母と兄は苦笑していた。詳しくは教えて貰えなかった。
だからこれは、その家を離れて十数年後、「もう時効だろう」と酒の席で聞かせて貰った叔父の体験談だ。
本家へ向かう自分たちを見送った叔父は、ごく普通に家の中で過ごしていたそうだ。
親族といえど他人の家、する事も特別なかった叔父は最低限台所と風呂だけを借り、戸締りを確認して客間で就寝した。
その夜だ。
丑三つ時ふと叔父は目を覚ました。窓の外から音がする。家の周りには砂利を敷いていて、それを踏みしめるような音がしたのだ。
叔父が身体を起こし音を辿る。頭に思い浮かんだのは不法侵入者の存在だった。誰だ、イタズラか?まさか強盗の類か?そう考えている間にも砂利を踏みしめる音は響いていた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
耳を澄ませているとその音はとても規則的で段々と大きくなり、小さくなる
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
兵隊の行進のような一糸乱れない歩調で遠くなり、近くなるこれは…
「家の周りを周回してる」
ポツリと呟いた瞬間だった。
ザッ、と足音の行進が止んだと思った瞬間、月明かりが窓の外の影を照らした。ヘルメットを被り銃を携えた兵隊のような影だった。その影が進行方向から窓へ向くと
バンッ!
と窓を叩いた。
バンッ!バンッ!バンッ!
割れんばかりの力で窓を叩かれる。叔父は何故かはわからないが「気づかれた!」と思ったらしい。「逃げなければ」とも思った。しかし、
面白かった!
そんな家に黙って留守番させる母と兄が一番怖いわ