イタズラ好きの山の主
投稿者:足が太い (69)
すぐそばに一体何がいるのか、足音と気配の正体を確認したい気持ちがあるものの、もしもとてつもなく恐ろしいものが居たらと思うと、怖くて目を開けられません。
絶対に目を開けないようにギュッと瞼を瞑り、布団を頭からかぶって耐えていたんです。
すると、それに気づいたのか、今度は私が眠っているベッドの上に何かが上ってくるのが分かりました。
ベッドの上を何かが歩いている気配と、それに合わせてギッ、ギィッと、ベッドが軋む音が聞こえてますます恐怖が募りました。
その気配は、それでも私が布団から出ないと気づいたのか、思いっきりベッドの上を飛び跳ねるようになったのです。
大きな気配がベッドを飛び跳ねる音と、それによる振動の恐怖に耐え、何時間経ったでしょうか。
やっと朝になり、カーテンの隙間から朝陽が差し込んできて、部屋の中が明るくなったのを布団ごしに感じました。
その頃になると、さっきまで聞こえていたベッドを飛び跳ねる音も、気配も全てなくなっていたんです。
またあの気配がやってくるんじゃないかと怯えながら素早く着替え、荷物を持って部屋を出ると、友達3人は既に廊下にいて、荷物を持って青ざめた顔で固まっていました。
友達は皆、夜のうちに私と同じ経験をしたようで、その後は朝食も食べずにすぐホテルを出て家に帰りました。
本当はそのまま家に帰るのではなく、お寺かどこかへ行ってお祓いなどを受けたかったのですが、とにかく皆疲れていたので、そういった話しは出来なかったのです。
家に帰ってからしばらくは、またあの足音が聞こえてくるのでは、気配があるのではと怯えていましたが、不思議と変わったことは起きませんでした。
何も怖いことが起きない日々が続いたので、いつの間にか、あの体験による恐怖は薄れていったのです。
後日、山登りが趣味の友達が、他の人に聞いたりして調べてくれたのですが、私達が登ったあの山には、実は山の主が住んでいるのだそうです。
その山の主はイタズラ好きで、波長が合う人間を見つけると、わざと足音をさせながら後をついていったり、気配をさせて驚かせるのだとか。
私達が泊まったホテルに山の主が出たのも、恐らくイタズラ心から、驚かせるつもりだったのでしょう。
家まではついてこなかったのは、その山から遠く離れている場所には、山の主も来られないからではないかと言っていました。
それ以来、私はあの山に登っていないのですが、山登りが趣味の友達は、まだ時々あそこへ行っているようです。
友達はたまに自分の後ろをついてくる足音を聞いているようですが、最初に聞いた時よりも恐怖心はないと言っていました。
今もまだ、あの山にはイタズラ好きの山の主がいて、波長の合う人間の後をついていって驚かせているのでしょう。
いい話ですね