八国山緑地で見た謎の女と道なき道
投稿者:窓際族 (47)
これは私が高校生の時に、八国山緑地で経験したお話です。八国山緑地とは映画「となりのトトロ」で登場する「七国山病院」の元ネタになった場所です。人の手が適度に入った穏やかな森が広がっているほか、モダンで大きな病院や住宅街と隣接しています。なので近隣住民、特に老人たちが健康維持のためなのか歩いているのをよく見かけますね。
そして、私も足腰を鍛えるためにたまにここには足を運んでいました。八国山緑地の近くに住んでいるわけではなかったので西武新宿線「東村山駅」から20分ほど歩いて行っていたのですが、「山」という名前が付いているわりには起伏がなだらかで歩きやすかったこともあり、トレーニング場所としてとてもお気に入りでした。お金もまったくかかりませんしね。
しかし、夕方遅くまでトレーニングをしていたある日のことです。日が沈もうとしていて辺りが暗くなり始めていたので、私は早くここを出なければと思っていました。遊歩道の大部分は街灯のない山道と言ってもいいようなもので、もし真っ暗になってしまえばその広さも相まって迷子では済まない危険があったからです。ところが、しばらく歩いていると日は無情にも暮れ、空はあっという間に夜の表情を見せるようになってしまいました。周りは真っ暗だし、大きな木がたくさん茂っているせいで星も月も見えなかったので怖かったことを覚えています。
とはいえ、ここは住宅街の中にある場所。どこか一方向に歩き続ければ、必ず街のどこかには出ることができます。さらに、私は高いところへ行けば街の明かりが見えるはずだと考えました。そこから最も近い明りを頼りに進んで行けば、比較的楽に街に出られるはずです。
そして、それは正しい判断でした。木々の枝や葉の隙間から、キラキラとした街の明かりが見えた時、私はここからまだ脱出できたわけでもないにも関わらずかなりほっとしました。また、その街へ行く方向の道はなかったものの、大きめの遊歩道に出られていたようなのでこれをたどればいつかは出られるとも思いました。
ところが。私は当時から自然豊かな公園やこういう山道は好きであったものの、当時の私は本格的なアウトドアやサバイバルの知識・技術をまだ学んではいませんでした。「道があるから大丈夫だろう」と油断していた私は街との近さに釣られて道っぽいが道ではない場所に入ってしまい、しかも転んで坂を3mくらい滑り落ちてしまいました。ここには崖のような場所はほとんどないですし、起伏もそんなにないのでケガはしませんでしたが、何せ周りは真っ暗だったので滑った時は本能的に落ちて死ぬと思い怖かったです。
無論、その時は必死で元の道に戻ろうとしました。しかし、暗いのでどこが道で、どこが道でないのかよく分かりません。もうこうなったらいっそ、枝葉をかきわけて街に強引に出てやろうかとも思いましたが、崖があるかもしれないと思っていた私はそれを止め、正しいルートも分からないままにひたすら進みやすそうなところを進んでいました。
そしてそうこうしているうちに、目の前に何か白く大きなものが現れました。直感的にこれは動物ではないだろうと思った私は、それに近づいてみる事にしました。すると、どうやらこれは白い服を着た人間らしいとすぐに気が付きました。しかし、様子が変です。いや、こんな場所で遭難している私自身も変なのは確かなのですが、この人は微動だにせず、また「すみません」と声をかけても動きません。たぶん道ではない場所でうずくまった姿勢のままでした。私はその時は追い詰められていたためか本気で「道を聞かなければ」などと思い、さらに声をかけてみたのですが効果はなし。
私は、もしかすると人形かなと思い触ってみる事にしました。すると、妙にリアルな感触。しかし、人間にしては妙に冷たいような感じでした。顔を見るにどうやら女のようですが目をつむったまま相変わらず返事も反応もなし。これを見て、私は次に「もしかするとこれは死体なのでは?」と思いました。そしてすぐさま、警察にケータイで電話しました。
その後、なんとかして警察の方に拾ってもらったのですが、警察からはいろいろなことを突っ込まれたのは言うまでもありません。しかし、経験が無いととうていそうは思えないとは思いますが、実際に遭難してしまってもすぐに助けを呼ぶような気にはなれませんでした。というより、まだ自力でなんとかなると思ってしまっていたのです。しかも街が目視できる距離にあったことが余計にそうさせたのかもしれません。
また、先ほどの女性にはOD(オーバードーズ)の跡があったので、救急車で搬送されていきました。危険な状態ではありましたが、生きているのは幸いでした。警察の方は、この緑地には霊がたくさんいるようなので、その影響を受けてかこういう人や肝試しなどで迷う人はたまにいると言っていました。私は半分公園みたいなこの場所で遭難したのは霊のせいだと思うことにしました。その時は不思議と「進まなくては」ということ以外考えられなかったのです。
とはいえ、これで痛い目を見た私がその後体力だけでなく、技術や知識も必要だということで登山の勉強をしたり、コースの下調べをしたりするようになったのは言うまでもありません。
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