亡くなったはずの祖母が
投稿者:水琴 (18)
母方の祖母が亡くなったのは、私が中学生の時でした。
それから、49日が終わった後、私達一家は旅行へ行きました。
春休みだったので、夕方にはもう暗くなっていましたが、母は、翌日の観光バスの時間を聞きに、観光案内所に入りました。
流石観光地、もう午後5時だったので、仕事を終えようと後ろの方ではスタッフが片づけをしていましたが、ちょっと年齢のいったスタッフがカウンターに1人残って座っていました。
その人に、母は用件を早口で聞いていました。もう終わる時間なので、悪いと思ったのでしょう。
しかし、やや年配のスタッフの人は、とてもゆっくりした話し方で、説明をしてくれました。
そして、母の目しか見ていませんでした。
私と妹が母の両側にいましたが、一瞥もくれずに、ただ母の目だけを見て、ゆっくりと教えてくれていました。
私達姉妹が口もきけなかったのは、その年配の人が、亡くなった祖母そっくりで、驚いていたからです。
顔は本当にそっくりで、違う所といえば髪が祖母より長く、肩に掛かるくらいまであったことくらいでした。
また、祖母は着物を着ることが多かったのですが、その人は当然洋服であったことくらいです。
でも、後で気付いたことなのですが、後ろで片づけをしている若いスタッフ達は、男性も女性も制服を着ていたのですが、母と対応してくれた人は、黒いセーターを着ていたのです。
もう先に着替えて、カウンターに座ったのかもしれませんが、ただ1人制服を着ていなかったのも何だか妙な感じを受けました。
観光案内所を出、妹と私は母の両側から、
「今の人、お母さんのおばあちゃんにそっ・・・くりだったね」
「そうそう、私もそう思った!」
と言いました。
母の返事は
「あら、そうだった?」
だったので、何故祖母の娘である母が、気付かないのだろうと思いました。尤も、祖母の顔や祖母のことは、私達より母の方がよく知っているのですから、私達姉妹から見れば「瓜二つ」に見えても、母には「他人の空似」程も感じないのも、無理のないことかもしれません。
母は、父に嫁いでから、父方の祖母との同居で、実家へも4~5年に一度しか帰りませんでした。私達姉妹も、父方の祖母のことは良く知っていますが、母方の祖母のことは、あまり知りませんでした。
その夜、私は旅館の布団の中で、涙が止まりませんでした。なかなか実家に帰れなかった末娘のことを思って、祖母が最後の別れを言いに来たように思えたからです。
観光案内所のスタッフの人の身体を借りて、母と話をしたのでしょう。
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