めくらかみ
投稿者:やうくい (37)
お盆休みに入ったある夏のことです。
大学生だった私は両親に呼ばれ、田舎にある先祖の墓参りに行くことになりました。
離れて暮らしているため、親は車、私は電車でお墓の最寄駅に集合することにしました。
当日のお昼過ぎ、数時間に一本、二両で運行している電車に乗ると、驚くべきことに誰もいませんでした。
自分だけの車両なんてあまり経験できることではありません。
テンションが上がった私は吊革で懸垂してみたり、座席を贅沢に使ってみたりと、しばらく一人ではしゃいでいました。
しかしながら当然10分もすると飽きてしまったため、座席に深く座って寝ることにしました。到着時刻ごろにアラームを設定し、しばらくボーっとしていると、昨晩遅くまで起きていたせいかすぐに眠ってしまいました。
目が覚めると降りるべき駅を通り過ぎてしまっていました。アラームが聞こえないほど熟睡してしまったようです。
次に着いた駅に降り、時刻表を確認すると、逆向きの電車は1時間後でした。
当然無人駅で、コンビニはおろか自販機すらありません。周りにはひたすら田んぼ、少し離れたところに森がありました。
私は時間を潰すため、森まで歩いてみることにしました。
よく晴れた日でしたので、田んぼ道の散歩はとても気持ちが良かったです。真夏でしたが、遮るものが無いためか爽やかな風がふき、真っ青な空には大きな入道雲が浮かんでいました。田んぼも青々とした稲が風に靡いていて、とても美しく感じました。
森まであと半分、というところまでまで来た時でした。田んぼのあぜ道に二つ、看板が立っているのが見えたのです。
何が書いているのかと見てみると、片方には
「犬のフンするな!」と書いてあります。
昔はよく見たはずが、最近はめっきり見かけなくなったなと懐かしく感じました。
犬を飼う人が減っているせいでしょうか。
よく道端に落ちていた犬のフンを
最近はあまり見かけない気がします。
もう片方の看板には、赤字にひらがなで
「ばくらのかわはぐめくらかみ
みつくおのこもかわはがれ
たのもにゆらりとうかびけり」
と書いてありました。
なんとなくゾッとしましたが、犬のフンを防ぐための脅しというやつでしょうか。
それに、ばくらがまず分かりません。
あまり気にしないことにして、先へ進むことにしました。
森のそばまで来ると、道が途切れていました。てっきり森の中に神社でもあるかと期待して来たのですが、森の奥の方を見ても何も無いようです。がっかりした私は引き返すことにしました。駅の方を見た時、ふと視界の左端に何かが映りました。左を向くと、森の木陰のせいか、薄暗い田んぼが見えました。
人影のようなものが見えた気がしたのですが、どうやら気のせいだったようです。
しかしながら、少し田んぼが気になった私は覗いてみることにしました。
意味不明な言葉よく覚えてますねぇ。
携帯落としたんじゃ!
取りにいかなあかんやん!
「犬のフンするな!」
この看板はもちろん犬に
言ってるんだろね!
ばくらのかわはぐめくらかみー>かえるのかわはぐめくらかみ
みつくおのこもかわはがれー>見ている男子も皮剥がれ
たのもにゆらりとうかびけりー>田の表面にゆらりと浮かびます
っていう意味なのかもしれない