めくらかみ
投稿者:やうくい (37)
田んぼは薄暗く、じめじめとしていました。
他とは違って稲は植えられておらず、濁った水だけが張ってあるようです。
その水面に、肌色のカエルがぷかぷかと大量に浮かんでいました。
幼少期は田んぼでよく遊んだものですが、カエルというものは基本的に緑色か茶色のものが多かったはずです。気になった私はもう少し近くで見てみることにしました。
どうなっているかがわかった時、私は息が詰まりました。ぷかぷかと浮かんでいた肌色のカエルはすべて、皮を剥がれて弱りきった状態だったのです。
一体誰が、何のためにこんな酷いことをしたのでしょうか。怒りが込み上げてきましたが私にはどうする事もできませんでした。
しばらくその場に立ち尽くしていると、突然凄まじい悪臭が鼻をつきました。生臭さや土臭さを凝縮したような臭いで、思わず口を覆ってしまいました。一体何処からこんな臭いがするのかと見回していると、先程の田んぼの様子が変わっていることに気がつきました。
薄暗い田んぼの端の方が、墨を流したかのように真っ黒に染まっていたのです。
ぷかぷかと水に浮かんでいたカエルが、突然狂ったように鳴き始めました。
墨はどんどんこちらに向かって広がっているようで、墨が辿り着いた箇所のカエルは次々と引き摺り込まれるように水の中へ沈んでいきました。
田んぼが真っ黒に染まり、辺りは再び静けさに包まれました。
私はあまりの恐怖に凍りついていたのですが、電車到着を把握するため設定していたアラームが鳴り、我にかえりました。
急いでアラームを止めようとしたその時
田んぼからまっ黒な人のようなものが立ち上がりました。
ヌルヌルと光る真っ黒なヒルが全身に張り付いており、こちらを向く、顔があるはずの部分にはぽっかりと穴が空いていました。
先程よりも更に強い悪臭に襲われ、むせ返った私は携帯を落としてしまいました。
携帯は滑り落ち、田んぼの淵で止まってアラームを鳴らしています。
流石にあれを拾いに行く勇気はない。
そう思った私は携帯を諦め、駅に向かって走り始めました。
去り際、あの黒い人が携帯に飛びつくのが見え、ぶつりと音を立ててアラームが消えました。
それからはひたすらに走り、気がつくと駅に着いていました。着いてすぐに電車が到着し、無事に目的の駅にたどり着いた私は、迎えにきていた両親を見て泣き崩れてしまいました。
未だにあの光景と看板は頭から離れません。
「ばくらのかわはぐめくらかみ
みつくおのこもかわはがれ
たのもにゆらりとうかびけり」
意味不明な言葉よく覚えてますねぇ。
携帯落としたんじゃ!
取りにいかなあかんやん!
「犬のフンするな!」
この看板はもちろん犬に
言ってるんだろね!
ばくらのかわはぐめくらかみー>かえるのかわはぐめくらかみ
みつくおのこもかわはがれー>見ている男子も皮剥がれ
たのもにゆらりとうかびけりー>田の表面にゆらりと浮かびます
っていう意味なのかもしれない