……これは、私の知人……仮に「T」としておきましょう。
彼が去年の夏頃に体験した、ある奇妙な話です。
Tは、いわゆる「AIイラスト」というものに、少しばかり熱を上げていましてね。
夜な夜な、パソコンの前に座って、呪文のような「プロンプト」を打ち込んでは、
理想の女性の絵を生成しているんだそうです。
……ええ、まあ、趣味の話ですから、私は口を挟みませんでしたが。
ある晩のことです。
Tは、いつものように……「黒髪ロング、和服、儚げな表情、雨の日、木造の縁側」……
そんな指定を打ち込んで、生成ボタンを押した。
出てきた絵は、なるほど、確かに美しかった。
青白い頬に、濡れたような瞳。着物の柄まで、細かく描き込まれていたそうです。
……ただ、一つだけ、妙な点があった。
女の背後、障子の向こうに……
もう一人、誰かが座っている影が、うっすらと描き込まれていたんです。
Tは指定していない。「一人の女性」としか、書いていない。
でもまあ、AIというのは、時々こういう「余計なもの」を描くことがあるらしくて。
彼は気にせず、その絵を保存した。
翌日、Tはまた同じ「プロンプト」で、別の絵を生成した。
違う構図、違うポーズ、違う表情。
……ですが。
その絵にも、背後に、あの影が写り込んでいた。
障子の向こう。座敷の隅。灯籠のそば。
場所は違えど、必ず——同じシルエットの、うつむいた人影が、いる。
Tはさすがに気味が悪くなって、プロンプトを全部書き換えた。
「洋風」「金髪」「昼間の公園」……和の要素は一切消した。
生成ボタンを、押す。
……ベンチの向こう、木陰に。
着物の女が、こちらを見ていた。
Tは、ぞっとしましてね。
すぐに私に電話をかけてきたんです。「これ、どう思う」と。


























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