昔から憧れだったマニュアルミッションのオープンカーに買い替えてから、週末には峠道を走ることにしている。
峠を走ると言ってもコーナーを攻めるとかいうものではなく、マニュアル車の操作を覚えるための練習と、ただ自然の風を浴びたいという、それだけの事だ。
だから走る道路は比較的広い道路だけを選んで、安全なスピードで走るように心がけている。
今まで行ける範囲の峠は何度も走りに行ったから、たまには違う所も走ってみようと思っていた。
そこで、ちょっと遠いR山にある展望台へと行くことにした。
展望台までは観光バスも通れるような広くてきれいな道路が整備してあるからだ。
念のためスマホで確認すると、展望台の裏の方にも道路があることがわかった。
地図アプリのビュー機構を使って景色の様子を見ると、鬱蒼とした木々の中に車がなんとか通れそうな程度の道路が通っていた。
この道路を裏ルートと呼ぶことにする。
裏ルートに行くまでは民家もそれなりにあって、そこは住民の生活道路のようだった。
その奥に進んでいくと大きめのお寺と広い幼稚園があることもわかった。
さらにその先はビュー機能では景色が見えず、おそらく撮影用の車が通らなかったのだろう。
もう少し調べてみると、裏ルートは道路が狭いだけではなく、思いがけず何かが起きるとか、犬の散歩をしている男性が忽然といなくなったというような噂話を見つけた。
何やら真偽不明の話ではあったが逆に興味を惹かれ、お盆の時期に取れた連休を利用して、明るいうちに裏ルートを走ってみることにした。
R山に行く途中で買い物や寄り道をしているうちに夕方になってしまった。
空はわずかなオレンジ色と水色のきれいなグラデーションに彩られ、いい感じに風も吹いているからこんな時こそオープンカーを買った意義があるというものだ。
しばらく走って裏ルートに近づいていくと、ビュー機能で見た住宅街に入っていった。
その道路は網目のように入り組んでいて、カーナビを頼りにしても迷うほどだ。
このあたり一帯は山を切り開いて作られたようで、所々に斜面に防護壁というのか、コンクリートの壁が印象的だ。
とりあえず路肩に車を停めると、そこには町の掲示板があった。
掲示板には、町の催し物の案内やお盆の時期のゴミ出しが出来ない日などの案内が張り付けてあった。
その中の1枚に色褪せている「尋ね人」と書かれたものがあった。
写真はかろうじてその人物の服装や顔が分かる程度に色あせていて、わずかに残っている説明文によると、犬の散歩に出掛けたまま帰ってこない男性を探してます、という内容だった。
あの噂は本当だった。
「どうしました?」
人なんて一人も見かけなかったのに突然呼びかけられて飛び上がるほど驚いたが、声の方に振り向くと、そこにいたのは犬の散歩をしている60歳くらいの男性だった。
「あ…いえ、この奥にある寺の方へ行きたいんですが迷ったみたいで…。」
「ああ、お盆のお墓参り?だったらここをまっすぐ行って突き当りを右に曲がると山道みたいな細い道路に出るから、くねくねした道だけど一本道だから、ちょっと距離はあるけどそれが一番わかりやすいと思うよ。」
「ありがとうござ」
お礼を言い終わる前に男性は被せて言った。

























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