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ヒトコワ

プルプル布顚🍮さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

生温かい逆さ雨
長編 2026/07/23 08:35 76view

 私はその瞬間、頭の中が真っ白になった。
 生温かい雨を、下から浴びて。
 私はこの時の記憶が一生、頭から、身体から、離れない。

 「今日は雨だねぇ」
 隣で日代(ひよ)ちゃんが言う。
「そうだねぇ……早く止むといいね」
 私がそう言うと、日代ちゃんはきょとんとした表情をしてから少し微笑(ほほえ)み、
「そうかな。私は雨好きだよ。ねぇ、玲(れい)ちゃん。雨の中少しお庭でかたつむり探ししよ!」
「うん、いいよ」
 日代ちゃんは私の友達・真由ちゃんの妹で、小学四年生の私より三歳年下だ。
 今日は真由ちゃん家で遊ぶ事になっていたのだが、急に真由ちゃんが、
「ごめん、今家にお菓子なかったから駄菓子屋行ってくる」
と言い、出掛けてしまった。だから今、日代ちゃんと私だけで遊んでいるのだ。
 外へ出ると、雨はしとしとと降っていた。季節は夏で、珍しい雨だった。
 夏とはいえ、雨が降ると多少は気温が下がる。蒸し蒸しとした湿気はあったが、少しは増しだった。
 真由ちゃん家の庭は割と広い。もう今年は枯れてしまったけれど、毎年梅雨(つゆ)の時期が来ると紫陽花(あじさい)が美しく咲いている。そして夏になると育てている胡瓜(きゅうり)が青々と実るのだ。
 暫(しばら)く探していると、
「あ、いた!」
 隣の家との間にある塀に、一匹の蝸牛(かたつむり)が張り付いているのを見つけた。蝸牛はゆっくりと前へ前へ進む。
 そんな様子を数分間観察した後、雨合羽(あまがっぱ)を着て鬼ごっこをしていた。傘を差していると走りにくい上に鬼が子を捕まえにくい。だから傘は閉じて手に持って走っていた。
「タッチ!次は玲ちゃんが鬼!」

 鬼だった日代ちゃんにタッチされ、私は日代ちゃんを追いかけた。
 もう少し。もう少しで日代ちゃんに触れる。
 その時、日代ちゃんが私の視界からしゅっ、と消えた。日代ちゃんは転んだのだ。
 真後ろにいた私も、転んだ日代ちゃんの足が当たりバランスを崩した。
 なんとか転ばないようにしたかった。咄嗟(とっさ)に右腕を伸ばし持っていた傘を地に垂直へ立てた。
ごりっ。
ばきっ。
嫌な音を聞いた。
 日代ちゃんの上に乗る形で転んだ私は、腕や身体(からだ)に生温かい液体を浴びる。
 血だった。
 頭の中が真っ白になる。
 日代ちゃんの首は可怪(おか)しく曲がり、頭部には、私の傘が刺さっていた。
 どうすれば。私は人を殺してしまった。このままでは警察に捕まってしまう。私は取り敢えず、血のついた雨合羽を脱いで日代ちゃんに被せた。
「ありゃりゃ、こりゃ派手にやったな」
 不意に背後から話し掛けられどきっ、とする。
 誰かに見られた。私は青ざめながら振り返る。
「だれ……?」
そこに立っていたのは黒い甚平(じんべい)を着て、杖を突いているお爺さんだった。
「おらぁ死神だ。怖がる事はない、警察には通報せん。」
「死神……?」
「そうだよ。人の命を取る死神だぁ。お前さん、その子を殺したんだろう?俺と契約しねぇか?」
「契約って、どういう契約?」

「まず、その子を見えなくしてやろう。そしてこの世界にその子は存在してなかった事にする。その代わり、お前さんの寿命を三〇年頂く。どうだ?」
「え……?でも……」
 確かに警察には捕まりたくない。けれど三〇年も寿命が取られるのは流石に困るのだ。
「もしかして寿命かい。じゃ、よく考えてみな。もし俺と契約せずに警察に捕まったら、死ぬまで苦しみながら牢屋ん中いるんだぜ?だが、契約をすれば警察に捕まらない。たったの三〇年寿命が縮まるだけでな。それにもしかしたらお前さんは元から長生きかもしれない。だったら人並みには生きれるさ。死んだ後も、俺がちゃんと迎えに来てやる。」
 死神の言葉を聞いて、私は決めた。
「……契約する。」
「そう来なくっちゃあ。」
 死神はにぃっ、と笑うと一枚の紙と万年筆を差し出した。
「ここに名前と、あと体の一部を乗せな」
「体の一部?」
「内臓とかじゃなくていい。髪の毛とか切った爪とかでいいんだ。」
 私は契約書と思われる紙に名前を書くと、髪の毛を一本抜いて乗せた。
「契約成立だぁ!」
 死神は甲高(かんだか)い声でそう言った後、一つだけ言った。
「ああ、一つ忘れていた。いいか、一週間に一回この子を見るんだ。じゃないと効果が切れちまうからな。効果が切れたらお前さんは即死だ。」
「えっ、」
 そう言った瞬間、背後から声がした。
「玲ちゃん、そんな所で何してるの?」
「あ、えっと…蝸牛探ししてた…」
咄嗟にそう答えていた。
「そうなんだ!お菓子買ったから食べよう?」
「あ……うん…」
 そう言って前を見ると、死神はもう居なかった。そして庭の角の近くで横たわる日代ちゃんの目は虚空を見つめていた。

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