これ、誰にも言ってないんだけど。
高校一年の夏、夜中に変なものに追いかけられたことがある。
あの頃の私はちょっとバカで、退屈で、何かやらかしたくて仕方なかった。
だからその日も、家族が寝静まったあとそっと自転車で家を抜け出した。
行き先は近所の中学校のプール。
女子更衣室って、どんな感じなんだろうって、ただそれだけ。
今考えると本当にくだらない。
夜中の一時過ぎ。田舎だから道は真っ暗で、車も人もいない。
タイヤの音だけがやけに大きく響いていた。
校庭の隅にある更衣室は校舎から少し離れていて、それだけで心細かった。
ドアは閉まっていたが、横の小さな窓を引いたらあっさり開いた。
建て付けが悪かったのか、鍵がかかっていなかったみたいだ。
中はじっとりしていて、古い木と湿気が混ざった匂いがした。
ロッカーは扉がなく、床にはすのこ。
想像していたような秘密は何もなく、ただの古びた空間だった。
少しがっかりして外に出た、そのとき。
遠くから赤い光が揺れた。パトカーだと思い、反対側の道へ自転車を走らせた。
そっちは街灯がほとんどなく、坂で、遠回りだった。
坂の途中に、小さな公園がある。息が上がって一瞬だけ立ち止まった。
公園の奥、ブランコのあたりに白っぽい何かがゆらゆらしていた。
煙みたいだが、風はないのに揺れている。
目を凝らすうちに輪郭が人に近づいていった。
足はない。なのに、近づいてくる。
動いたら、向こうも動いた。距離が確実に縮まっていく。
自転車を握り直して坂を下った。チェーンが軋む音と息が混ざって、ただ前だけを見ていた。
家に着くまで、振り返らなかった。
玄関のドアを閉めた瞬間、あの気配は消えた。家の中はいつも通りだった。
少し後に、公園のトイレが全焼する事件があった。
放火した人が、燃え上がる炎に向かって叫んでいたという。「消えろ」「来るな」と。
あの夜、私を追いかけてきたもの。
あれは私を追っていたのか、それともあの人のほうにいたのか……



























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