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不思議体験

溜塵穢さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

nice to meet you
短編 2025/11/08 01:15 695view

ある女性の体験談。

久々に22時近くまで残業をした帰りだった。眠気と空腹で立っているのがやっとなのに、こんな日に限って電車は座れない。立ったまま睡魔と戦い、やっと自宅の最寄り駅に着いた。ここからは徒歩で10分程度、もう少しの辛抱だ。帰ったらちょっとだけ仮眠を取ろう、ご飯やお風呂はそれからだ。そんなことを考えていると、背後から奇妙な声がした。

「あ…あああ!居たぁ!!よかったぁ〜…」
思わず振り返ると、髪の毛が寂しい小太りのおじさんが駆け寄ってきていた。ん?私の前を歩く人は居なかった気がするが、誰に声をかけていたんだろう。気になって進行方向に視線を戻そうとすると、そのおじさんに肩を叩かれた。
ちょっと何するんですか!
慌てて振り払い、敵意を全力で向ける。
「や、これは失礼しました。驚かせるつもりはありませんでした、すみません。まさか出会えると思っていなくて」

マジか。おじさんが目指していたのは私だ。しかしどれだけ探しても、この人との接点が記憶の中に見つからない。保育園や小学校のときの担任?いや、違う。学生時代の知り合い…にしてはだいぶ歳上に見える。分からない。誰なんだこの人。失礼かなと思いつつ、本人に聞いてみることにした。どこかでお会いしたこと、ありましたか?
「あぁ、ないでしょう。すれ違ったことはもしかしたらあるかもしれませんが、私も貴方とお話しするのは初めてですので」

…なんなんだコイツ、不審者か?逃げた方がよいのか?しかし乱暴をはたらく様子はない。距離も取れている。一応、要件を確認して、奇行に出たら逃げるか。改めて何の用か男性に尋ねようとしたところで、先に男性が口を開いた。

「いやぁ、お会いできて本当によかった。これで死なずに済む」

は?

全く予想していなかった台詞に、女性は思わず本音を口走る。すみません、仰っていることがよく分からないんですけど。

それを聞いた男性はきょとんとした。

「え?だって…」
そこまで言った男性は何かを悟ったのか、途中で言葉を切って怪訝な顔した。片手に握っていたスマホと女性を何度か見比べ、そうするうちにみるみる顔から血の気が引いていく。

「そんな、人違い…?い、いやだ、まだ死にたくない…死にたくない!」
男性は背を向けて、来た道を走って戻っていく。と、

カランカランガシャーン!!!!

けたたましい音とともに、金属製の長い棒が大量に降ってきて男性を呑み込んだ。ちょうど男性が走って横切ろうとしたビルが改装中で、おそらくはその足場…音に気づいた人々がわらわらと集まってきて、棒の山の中に男性の存在を確認するや、大騒ぎになった。女性はしばらく立ったままその状況を眺めることしかできなかった。

当然だが完全な他人、男性の生死は不明、自分のことを何と間違えていたのかも何も分からない。ひとつだけ分かったのは、知らない人に話しかけられたら『関わらない』のが最善の策であるということ。私のようにロクでもないモノを見ることだって、あるみたいですからね。女性はそう言って話を終えた。

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