これは私が学生時代に一人暮らしをしていた時の話です。
私が暮らしていたのはなんの変哲もない、木造3階建て、1DKの普通のアパートでした。
アパートの正面に、道を一本挟んで川が通っているんです。私の部屋からも見下ろすことができました。
ここで言う川というのは、多摩川や荒川みたいな川ではなく、目黒川みたいな、護岸工事がされて整備されてるものをイメージしてもらえるといいと思います。
ある日、数年に一度という大きな台風が来て、記録的な豪雨を記録したことがあったんです。
朝からずっと大雨で、昼前くらいですかね、氾濫注意報が発令されたのでちょっと部屋から川をのぞいて見たんです。
そしたらもう本当に今にも溢れそうな感じで、今まで見たこともないくらいの水位になっていて、こりゃ避難も考えなきゃか…なんて思っていたんですけど…
ふと、川の対岸に人が何人かいる事に気づきました。
大雨ですし、結構距離があってはっきりは見えなかったんですけど、よーく見てみると、5人が列になって川の方を向いて並んでるんです。
役所の人たちが川の具合を見に来たのか、はたまたただの野次馬なのかとか、いろいろ考えたのですがこの大雨の中ほぼ微動だにせず並んで川を見下ろすその5人に私は不気味さを覚えました。
結局自分の中で、川の様子を見に来た役所の人だろうと結論付けて、私はそのまま一眠りする事にしました。
目が覚めた時、19時を回ったくらいで、もう台風は去っていました。
先ほどの5人の人影が少し気になったので外を覗いてみたら、もうそこには誰もおらず、ホッと安心をして川をぼんやり見ていました。
すると、川から出てきたんです。
何かが。
溢れそうな水位の川から、まるでプールサイドに上がる時のようにザバっと…
溺れた人が這い上がってきたのかとも思ったのですが、その考えは一瞬で間違いだと気づきました。
その何かは真っ黒なんです。
そしてよく見ると人の形でもない。
とにかく黒い何かが川から這って出てきたんです。
そしてこっちを見ました。
それは真っ黒で顔も何もわからないのに、なぜかこっちを向いて目が合ったと思ったんです。
その瞬間全身に鳥肌が立ち、直感的に「こっちに来る」と思った。
私は半分パニックになりながら、どうしようと考えているとき、以前日光東照宮に旅行した時に買ったお浄めの塩がある事を思い出しました。
どこにしまったかうろ覚えだったのですが、奇跡的にすぐに見つかって、とりあえず玄関に撒いて、そしてやり方が合っているかも分からない盛り塩を2つ、ドアの両脇に置いてみたんです。
そうこうしている間にも、例の何かが近づいてきているという雰囲気を感じとっていたので、私はもう生きた心地がしなかったです。
5分くらい経ったでしょうか、布団をかぶって震えているとピンポーンとインターホンが鳴りました。
私はもう心臓が破裂するかと思うくらいびっくりして、叫び声をあげてしまいました。
ベッドから出て恐る恐るインターホンのモニターを見ると、大家さんのおばぁさんが立っていました。
少し安心した私はインターホン越しに返事をしました。
すると大家さんは「台風の影響で建物に影響がないかを確認している」とのことでした。
大家さんの様子がいつも通りだったので、私はすっかり安心し切って鍵を開けるために玄関に向かいました。


























怖い思いをしているなかで、素晴らしい機転!氾濫した川は恐ろしいけど、怪異も恐ろしい。