怪談を取材していると馴染みのある建物や場所、訪れた事のある駅名での体験談を聞く事が多々ある。
固有名詞を使用した方が怪談の生々しさをお伝えできることは重々承知しているが、現地の方や関係者様の望まない結果になってしまう恐れがあるのが怪談実話。
県名や名所の名前を伏せてのご紹介、体験者様のお名前は全て仮名を使用することをご了承頂きたい。
Y県には、開運の効果が期待されている事で有名な滝がある。
小林さんは30代前半の頃、奥様と一緒にその滝に出かけた。駐車場に車を停め、たくさんの杉の木が生えている並木道を進む。水の流れる音や木々が風に揺れる音。その当時はまだ改装前であった古い橋を渡った。
すると突然、複数人の話し声が聞こえてきたのだ。一昔前の音質の悪いラジオから流れるノイズ混じりの声。何を話しているのかはわからないが、複数人で話していることだけは理解できた。
「誰かいるのかな?」
この話し声はふたりとも聞こえている。観光客か誰かが話しているのだろうと思い、目的である滝に向かって歩みを進めた。
滝に近づくにつれ、どんどん大きくなる話し声。相変わらず何を言っているのかわからない。その話し声は姿こそないが、耳のすぐ後ろから聞こえている。
気味が悪くなってきたので、滝を目にして手を合わせた後、足早で車に戻ることにした。戻っている最中、今はもう使われていないであろう掘立て小屋を見かけたので
「あれなんだろうね」
と奥さんに問いかけると
「動いてたね」
と返答をされた。
「小屋が動くわけないでしょ」
「あ、そっち?」
話を聞くと、一瞬のことだったので何が通ったのかわからないが、小屋の近くに白い人影が見えたのだという。不可思議に感じながらも確かめようがないので再び歩き始めた。来たときと同じように橋を渡ったとき、うるさく鳴り続けていた話し声がピタリとやんだのだ。
声が聞こえ始めたのも橋。
声が聞こえなくなったのも橋。
今では新しい橋がかかっているのだが、もしまたあの声が聞こえてしまったらと思うと、再度訪れる勇気は持てなかったという。






















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