私が昔、免許取りたての頃、私が昔付き合っていた恋人の墓参りに行った帰りに起こった話である。当時の私は黄色の三菱ランサーセレステを乗り回していた。ちなみに私がなぜランサーセレステを購入したかと言うと、本当はアメリカ風クーペの三菱ギャランΛが欲しかったが、私の予算が足りず、安価で雰囲気重視のクーペであるセレステにしたのだ。ランサーセレステはランサーのクーペバージョンであるギャランFTOの後継モデルで北米ではプリマス・アローと言う名前で知られている。当時、三菱自動車は北米ではクライスラー名義での販売であった。ちなみに大藪春彦の「絶望の挑戦者」ではアメリカのビッグ3(GM、フォード、クライスラー)による日本の自動車産業の征服が書かれている。そして、ギャランGTOの後継モデルであるギャランΛの弟分でもある。ただ、ギャランFTOと違って、大型(重量化)しており、走りを楽しむというより、スポーツカーの雰囲気だけを楽しむためにあるものであった(それはギャランΛも同じことが言える)。私は恋人の墓に手を合わせて、お供え物のどら焼きとデンドロビウム(花言葉では「わがままな美人」という意味がある)の花束を出すと、愛車のランサーセレステに乗り込み、エンジンを掛ける。
「帰る時は気を付けろ」
私の脳内に一瞬、恋人の声が聞こえたようであった。私は
「OK。ありがとう」
とランサーセレステを発進させる。
カーラジオから村下孝蔵の「初恋」が流れる。その足で冬馬レイの自宅に向かう。セレステをレイの家の近くの駐車場に止める。その隣にはレイの愛車のプジョー604が止まっていた。604は同時期に登場したフランスの高級車の代表格シトロエンCXより影が薄い存在であった(ちなみにアラン・ドロンの犯罪映画「ブーメランのように」でドロンの愛車として使用されていた)。私はレイに顔を合わせると近況報告をした。オーディオマニアのレイはご自慢の高級オーディオでマイルス・デイヴィスのアルバム「イン・ア・サイレント・ウェイ」を大音量でかける(ちなみにレイのご自慢の高級オーディオがある部屋は防音使用である)。私とレイは少し時間をつぶして、繁華街の韓国料理屋で夕食を取ることにしたのだ。ちなみに私はマイルス・デイヴィスの音楽に耳を傾けず、城山三郎の「役員室午後三時」と「総会屋錦城」を読んでいた。レイは
「なぁ、俺の車で行かないか?」
「いや、いいわ。あんたのプジョー604じゃあ、周りから目立ちすぎて盗難にあうよ。それにアンタ韓国料理屋でマッコリ呑むつもりでしょ?アンタのプジョーだと行ったり来たりになるから、私が運転するセレステでいいわ」
「しょうがないね。んじゃ、今度、俺のプジョー604を貸してやるから、一度コロがしてみな」
と笑う。私は604より存在感のあるCXの方が好きなんだけどなぁ・・・と心の中に呟く。
午後三時ごろ、私とレイは繁華街の韓国料理屋にランサーセレステで向かう時、子供ずれの女性が声をかけてきた。女性の手には新聞紙で包まれたものがあった。女性は
「あのさ。アンタたち、繁華街の方に向かうだろ?ちょっと乗せてってくんない?」
と言われた。レイは私の耳元に
「俺の近所に住んでいる遺産相続でもめている家の奴(長男の嫁)だ」
と囁く。レイから事情を聞くと先日、その家の世帯主が事故で亡くなっており、世帯主の長男は失踪しており、次男が世帯主(父親)の遺産を相続することになったのだ。その事で長男の嫁と次男一家の間で相続争いが起こったのである。私は女性と子供をランサーセレステに乗せて走らせた。カーラジオから菊池桃子の「もう逢えないかもしれない」が流れてくる。セレステを運転する私は助手席のレイに対して
「あの長男の子供、意外と可愛いな」
と発言する。レイは私の耳元に
「なぁ、後部座席には長男の嫁しか乗っていないぞ」
「は?」
「そもそも、あの家の失踪した長男には嫁はいるが、子供はいない」
セレステが赤になっている交通信号機に止まると私は後部座席を振り向いた。そこにはイビキかきながら長男の嫁と子供の真ん中に血まみれの老人の姿が写っていた。レイは
「信号を曲がった所のガソリンスタンドに入ろう」
と呟く。どうやら、レイもうすうす感ずいたようであった。交通信号機が青になった時、私はセレステを急発進させて、ガソリンスタンドに入った。私とレイはすぐさま、私のスマホで警察を呼んだ。私はセレステの方を見る。セレステの後部座席には長男の嫁は寝ているが子供と血まみれの老人がこちらを見ていた。数分後、ガソリンスタンドにパトカーが来た。警察官たちはH&K・G3自動小銃を構える。長男の嫁は起き上がり、外を見る。長男の嫁は警察官がいることに焦り、新聞紙に包まれたモスバーグM500散弾銃を取り出し、警察官に向けて発砲する。警察官たちはG3ライフルをフルオートで乱射し、私の愛車のセレステと長男の嫁をハチの巣にした。なお、後から調べた所、後部座席に見つかったのは死体となった長男の嫁だけで子供と老人は乗っていなかったのだ。
その後、レイの近所の遺産相続でもめている一家の自宅で世帯主の妻と次男一家が散弾銃で射殺された死体が発見された。おそらく、長男の嫁が遺産目当てで皆殺しにしたとみられる(失踪した長男も嫁に殺害された可能性もあるのだ)。そして、私の初めての愛車セレステはそのまま、廃車となった。その後、私はレイからプジョー604を借りたが、私がスーパーで買い物している時、クソガキ共がプジョー604を窃盗&無免許運転かまして、大破したのは言うまでもない。愛車のプジョー604を破壊されたレイは一時、鬱状態になったという。
終わり
























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