行き止まりのトンネルの怪

「凄いなぁ、菫子さん。GNP(がんばれ日産パルサー)に乗っているんだ。しかもエクサに」
恋人のロニーは私の自家用車の青色の日産パルサーエクサ(N12型)を見て、口笛を吹いた。ちなみにこのエクサはリトラクタブルヘッドライトを搭載したノッチバックの2ドアクーペだ。ちなみにパルサーにはラングレー(ミニ・スカイライン)とリベルタ・ビラ(パルサーのセダンバージョン)と言う兄弟車が存在した。ま、ロニーには私がエクサを所有している事は一度も話したことがなかったからだ。このエクサは私が免許取りたての頃に私の父が購入してくれた車だ。なお、昔からカーマニアかつオートバイマニアだった父は普段からカワサキKR250を愛用しているロニーともウマが合うらしく、両親は私とロニーの交際を認めているのだ。ちなみに私がエクサを使う時は、私が実家に帰省する時や遠出をする時に使うのみだ。
「ねぇ、ロニー。今から私とドライブしてみる？」
「ええ。よろこんで、ただし、運転は菫子さんにお任せするよ」
「OK」
私とロニーはエクサに乗り込み、車を発進させる。外は雪が降り始めていた。ロニーは
「どこに行くんだい？」
「ちょっと私が行きたいところがあるのよ。そこでいいかしら？」
「OK。俺は菫子さんの行きたいところならどこへでも行くよ」

と私はエクサの車内で会話する。そして、私たちはあるトンネルの前を差し掛かった。トンネルに入る前にエクサのリトラクタブルヘッドライトを開ける。一昔前まではリトラクタブルヘッドライトはスーパーカーの特権みたいなものであった。もっとも、トライアンフTR7やフィアットX1／9といった安価な外車にも搭載されていた。国産車ではマツダ・サバンナRX-7にリトラクタブルヘッドライトが搭載されたのを皮切りに、他社のスポーツカーでもリトラクタブルヘッドライトを搭載するようになったのはいうまでもない(ただ、国産車で初めてリトラを搭載したのはトヨタ2000GTが最初であるが、一般的にリトラ搭載車が普及したのはサバンナRXー7が登場したあたりからである)。リトラクタブルヘッドライト自体が80年代の国産スポーツカーのトレンドであったのだ(その後、安全性やコストの問題で廃れていった)。ロニーは
「危ない！」
私はいきなり急ブレーキを踏んだ。
「ロニー、どうしたのよ・・・」
「菫子さん、前・・・」
私は前を見ると、コンクリートの壁があった。どうやら、トンネルはここで行き止まりのようである。幸いこのトンネルはUターンできるようになっているため、エクサをさっきの所まで戻る。エクサをトンネルの前の辺りで停車させた。
「ロニー、危機一髪だったわね。一歩間違えれば映画「バニシングポイント」のコワルスキーが運転するダッジ・チャレンジャーみたいになっていたわ」
「ああ。菫子さん、いったんここで休憩しよう」
私とロニーはエクサから出て、外の空気を吸う。外は雪がポツリポツリと降り始めていた。私たちは天候の関係もあるので今来た道を引き返すことにした。私が「行きたいところ」に関しては日を改めて、行く事にする。

そんな時、爆走する赤色のダッジ・オムニ024がトンネルの中に入っていった。ダッジ・オムニ024はアメリカの自動車会社クライスラーのスポーツカーである。ただ、クライスラーのスポーツカーの中ではアメリカのアクション映画で大活躍したプリマス・バラクーダやダッジ・チャレンジャーやチャージャーよりは知名度は劣るが(ちなみにオムニ024は日本では当時、クライスラーと業務提供していた三菱自動車の販売ディーラーが販売を担当していた)。
「あのダッジ・オムニ024。きっと、私達みたいになるわね」
と私は呟く。10分後、私たちは休憩を終えて、帰路に就く。ロニーは
「なぁ、あのダッジ・オムニ024。10分もたっているのに、なかなか引き返してこないんだけど・・・いくらなんでもおかしくないか？」
と言う。それはそうだ、いくらなんでも引き返してこないなんておかしい・・・。それにトンネルは行き止まりで私たちの所まで引き返してくるはずだ。私はこの時、嫌な予感がした。
「まさか、コンクリートの壁に激突したのかしら？」
「おそらく、その可能性もあるな。菫子さん、懐中電灯あるかい？」
私はグローブボックスから懐中電灯を取り出す。私とロニーは懐中電灯の光を頼って、トンネルの中に入った。そして、トンネルの行き止まりの所で恐怖した。

トンネルの行き止まりにダッジ・オムニ024が存在しなかったのだ。私たちはエクサの所まで戻る。私がエンジンを掛けて、エクサを発進させる時、私とロニーは驚愕した。猛スピードで爆走するさっきのダッジ・オムニ024が出口のないトンネルの中に入っていく姿を。

終わり