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心霊

うるたさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

事故物件
長編 2025/09/10 15:25 3,183view
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20代の頃、とある不動産仲介業で働いていた時の話。
不動産といっても賃貸の方だったけど、それなりにお客さんは多かった記憶がある。
借りたい人が多いということは、その条件も様々。
けれど共通してる部分もあって、それは「できるだけ安く借りたい」ということ。

お客さんとしては当然だけど、仲介側からしてみればそうではない。
利益を考えるなら「仲介業にとっていい条件」の物件を紹介したいわけだ。

今もあるのかはわからないけど、当時の賃貸物件紹介は物件の台帳があって、そこにはわかりやすい指標があった。
「AD」とか書かれてる項目なんだけど、これは簡単に言うと、物件の持ち主が物件を紹介した仲介業者に支払う報酬。
俺がいたところはAD1なら家賃1か月分、AD2なら2か月分、契約成立の時に報酬としてもらえるって感じ。

俺の勤めてた会社は月間目標があった。だからこのADが高い物件をあの手この手で紹介してたんだけど、ADは高い物件でも3くらいが最高値。

で、このADは貸主がすごくいい人!みたいな一部例外を除いて高ければ高いほど…例えば立地が悪いとかボロいとか、物件としては微妙になっていく。少なくとも当時はそういう傾向だった。
人が入らないから報酬を上げてでも契約してほしいってことだ。

物件を借りに来る人は大体が「立地が良くて」「きれいで」「できるだけ安い」物件を求めてるけど、そういう物件は当然ADは低い。
けれど、そういった条件を満たしつつADも確保できるものもある。それが所謂「事故物件」だ。

これは俺からすればある種のボーダーラインとしてとても便利なものだった。
「もっと安くていい物件はないのか」と言ってくるお客さんに対して、「これ以上はこういった事故物件しかないですよー」みたいに使ったりね。
大抵の人は事故物件は嫌がるから、実際こうすることで妥協が生まれてADが高めの物件も紹介しやすくなるから契約数はそれなりにキープできてた。

前置きが長くなったけどここからが本題。

ある時、一組の親子が家を借りに来た。
その親子は中国人の母子で、息子は高校生だったと思う。

親子は例にもれず、「立地が良くてきれいで安い」物件を求めた。
具体的には2部屋以上あってきれいで家賃が3万程度のところという感じ。

そんな物件あったら俺が住みたいわ!と思いながらも、俺は今まで通り物件を紹介したけど、親子はそのことごとくにNOを突きつけた。
親子の出した条件で重要視されたのは「全て」。一切妥協はなし。

大体のお客さんは条件のどこかを妥協する。
立地が良くてきれいなら家賃は高くなるし、家賃が安くてきれいなら立地は悪くなる。って具合に何かを妥協しないと理想に近いものは出てこないからだ。

でもその親子は全てを満たす物件を出せと文句を言うことしかしなかった。

だから俺は、「そういう物件は確かにある。でもそれは事故物件になるけど構いませんか?」と、いつも通りに紹介することにした。
駅まで徒歩3分、近隣には病院もスーパーもあって、2LDKのマンション。
普通なら8万円する家賃が、その部屋だけは3万5千円。

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コメント(1)
  • こわ!

    2025/09/11/16:56

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