地元で有名な心霊スポットに行った。
自殺の名所と噂されるとある廃ビルだった。
友達同士のほんの軽いノリで、5人でレンタカーを借りてその場所へと向かった。
夜の廃ビルは心霊スポットと謳われるだけあって辺りに薄気味悪い雰囲気を漂わせていた。
幽霊が写るかもとはしゃぎながら写真も撮ったが、特に怪現象といわれるようなものも何も起きないまま、私達はその場を後にした。
次の日、友人があの日撮った写真の内の一枚を送って来た。
“これってオーブってやつじゃない?”
そんなコメントと共に送られて来た写真を見ると、4人がピースをして並ぶ写真の周りに光の玉のようなものが無数に写りこんでいた。
“オーブって浮遊する埃にフラッシュが反射したものらしいよ”
くだらないなと思いながらそう返した。
“ノリ悪www”
すぐに返信が来る。
“でもオーブもだけど何気にもう一個怖いのあるのわかる?”
その返信に私はもう一度写真を見返した。
「あ…」
偶然といえばそれまでかもしれない。
私の周りでピースする3人の友人。
その3人全員が真ん中の私を見ていたのだ。
しっかり顔を向けるというよりは、若干視線だけをこちらに向けてるような、ぱっと見では気付かないくらいさりげないものだった。
“偶然だろうけどたしかに気持ち悪いね”
“でしょ、最初見た時鳥肌たったもん”
そんな話の流れから、私たちはこの写真を大学内で霊感が有ると有名な知り合いに見せることにした。
知り合いの本名は伏せるがここではハヤシさんと呼ぶことにする。
大学近くのカフェで私たちはその写真が写ったスマホの画面をハヤシさんに見せた。
ハヤシさんは画面を見るなり何か嫌なものでも見るように眉をひそめた。
「ほんとに申し訳ないんですが、私には見えるだけで祓う力とかはないので。それだけは先に言わせてください。」
ハヤシさんの放った言葉に違和感を覚える。
「なんで祓うとかそんな話になるんですか?まるで私たちが取り憑かれてるみたいな雰囲気じゃないですか。」
そう尋ねるとハヤシさんは答えた。
「だってこれあまりにもはっきりと写ってるから。」
ハヤシさんはそう言いながらしかめた顔でテーブルのスマホをこちらに押し戻した。
「え、だってこれ光の反射ですよね?心霊っぽく言うとオーブとか言うみたいですけど、そうじゃないんですか?」
てっきり笑って馬鹿にされると思っていた、いや期待していた私たちは予想とは違うハヤシさんの反応に困惑を隠せなかった。
「あ、オーブ…ですか。二人にはそう見えてるんですねこれ。」
ハヤシさんは写真を視界に入れないようにやや斜めに目を伏せながら呟いた。
「お二人がオーブだと言っている光、顔ですよ。それもおびただしい数の。これだけ死者の魂が集まる所って、一体みなさんどこに行かれたんですか。」
コーヒーカップに添えた私の右手に鳥肌が立つのを感じた。
「顔…?私には丸い形の光にしか見えないですけど…」
一緒にいる友人も不思議そうにテーブルの上のスマホの画面を覗き込んでいる。
「それと何よりも私がこの写真を見て危ないと感じた点がもう一つあります。」
「危ない…ですか?」
「はい。この周りに浮かんだ顔、全てあなたの方を向いているんです。」
私は青ざめた顔でスマホの写真に視線を落とした。
先ほどまでただの光の反射が映り込んだ一枚の写真としか考えていなかったモノはいつしか禍々しい空気を画面から放っていた。
「それで、その、どうすればいいんでしょうか。危ないってまさか死ぬとか、そんなのはないですよね?」
ハヤシさんは静かに答えた。
「先程も申し上げた通り私はあくまで見えるだけで祓ったり、そっちの方の知識に精通してたりそういったものは一切ないんです。死んでしまうのか、とおっしゃいましたがそれは私にもわかりません。ただ大小関わらず何かしら良くない事は起こると思います。お祓いとか、検索したらしてくれる場所とか出てくると思うんで、探してみてくださいとしか言えないです、ごめんなさい。」
淡々と話すハヤシさんの姿は暗に”面白半分で心霊スポットに行くあなたたちが悪い”という私たちへの軽蔑の意を孕んでいるようにも見えた。
私たちはその後重々しい空気のままカフェを後にした。
その日はそのまま一緒に来ていた友人に私の部屋に泊まってもらうことになった。
あんな話を聞いた後に一人で眠るなんて、とてもではないができる気がしなかった。
ベッドでスマホをいじる私の隣で、床に布団を敷いて友人は疲れていたのか早めに眠りについていた。
そろそろ自分も寝ようかと部屋の電気を消そうとした時、
メッセージの着信を知らせる通知音が鳴った。
念のためと頼み込んで連絡先を交換してもらったハヤシさんからだった。
“夜分遅くにすみません。伝えるか迷ったのですが、何かが起きてからだと私も気分が悪いのでお伝えすることにしました。心霊スポットから帰って来てから、あなたの友人に変わった点はありませんか”
唐突なメッセージにその質問の意図が読み取れなかった。
続け様に次のメッセージの通知音が響く。
“単刀直入に申し上げると、今日あなたと一緒に来られた友人はあなたの友人ではないと思います。全く別のなにかです”
“見た目は友人のままでしょうが中身は完全に連れて行かれています。その場で指摘してはソレの怒りを買ってしまうかもしれないと思い、すぐに伝えることができませんでした。ごめんなさい。”
“友人を元に戻すことができるのか、その方法が何なのか。それは私には分かりません。ただあなたに忠告することはできます。その友人と一緒にいる事はお勧めできません。”
首筋を冷たい汗が流れた。
カフェでハヤシさんと話した時、てっきり写真を見ないように目を伏せているのかと思っていたが、あれは目の前で私のすぐ隣に座る何かを避けていたのではないだろうかという考えが不意に浮かんだ。
面白半分で心霊スポットに行って写真を撮っただけなのに。
写真の中で私を見つめていた3人は、その時既に何かに取り憑かれた状態だったということなのか。ハヤシさんが送って来た”連れて行かれた”という言葉は一体何を意味しているのだろうか。
その”連れて行かれた”友人は今すぐ隣で寝ているというのに。
頭の整理がつかないまま私は恐る恐る隣で眠る友人の方へと視線を移した。






















これは怖い
サラッとしたオチの付け方が素晴らしい