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不思議体験

舟端さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

妹のクローゼット
短編 2025/08/21 00:46 1,232view
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私の妹は小さい頃から少し不思議な子でした。
内気で、同年代の輪に入るのが苦手で、気がつくと公園から姿を消していることがよくありました。探しに行くと、決まって近くの墓地にいるのです。そこには古い水子地蔵が並んでいて、妹はいつもそこに水を供えていました。おばあちゃんの真似をしていたのかもしれませんが、同じ年頃の子でそんなことをしているのは妹だけでした。

そのせいかどうかは分かりませんが、妹には小さい頃から“普通の人には見えないもの”が見えていたようでした。
妹が一番よく話したのは、「クローゼットの中にいる子供たち」についてでした。実家に住んでいたのは祖母、両親、そして私と妹だけですし、当たり前にクローゼットに人が住んでいるわけもありません。けれど妹曰く、クローゼットの中には子供がいて、彼らは妹の友達なんだそうです。私はそんな話ばかりする妹を少し不気味に思っていました。

しかし成長するにつれ、妹は私たちに見えないものについて話さなくなりました。その代わりに現れたのが、ひどい金縛りです。
夜、自分の部屋で寝ていると、枕元に人が立っていて、怒鳴り声が聞こえ、体がベッドに押さえつけられる感覚がするらしいのです。しかも不思議なことに、他の部屋で眠ると金縛りは起きないのです。

妹の部屋では、それ以外にも説明できないことが次々と起こりました。
家中どこでも使えるはずのWi-Fiがその部屋にだけ入らず、電子機器はすぐ壊れ、金属はすぐに錆び、母が定期的に布団を洗っても妹の布団だけは何度もカビが生えました。やがて妹は自分の部屋をひどく嫌がるようになり、高校を卒業して家を出るまで、ずっと私の部屋の床で眠っていました。

そして妹は大学進学を機に家を出ると、嘘のように元気になりました。今ではホラー番組を見て悲鳴をあげる、ごく普通の大人です。子供の頃に口にしていた「クローゼットの子供たち」や、自分に霊感があったことすら覚えていません。

しかし私は思うのです。
あの「子供たち」は、妹が墓地の水子地蔵に心を向けていたからこそ、彼女のもとに集まったのではないかと。忘れられた存在である水子たちにとって、妹はただ一人、自分たちを見てくれる友達だったのではないでしょうか。けれど妹が大人になり、霊感を失ってしまった時、子供たちは必死に忘れられまいと存在を示そうとした。それが妹には金縛りや怪奇現象としてしか伝わらなかったのではないか、と。

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コメント(1)
  • 優しい妹さんですね。あなたも優しい。美しい姉妹愛。

    2025/08/25/22:53

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