僕の友人の話をしよう。
職場の同僚に佐々木という名のガタイのいい男がいた。
佐々木と僕は同じ時期に入社し、歳も近かったことから入社後すぐに意気投合し、配属先の部署も同じだったため、すぐに仲良くなった。
すでに、同期というより友人に近かった。
佐々木は僕とは全く逆の性格をしており、社交的で取引先からも指名を何度ももらうような優秀な奴だった。
僕たちは、小さな電気会社に勤めている。
ある日、佐々木が取引先に、契約書類などを送りに行くといい事務所を出た。
佐々木を見送り、僕は自席に戻った。
自席でPC作業中に何気なく佐々木のデスクに目をやると、黒いワンピースをきた髪の長い女が座っていた。
僕は昔から霊感があり、たまにこの世のものではない者を見ることがあったので、驚きはしなかった。
もう一度佐々木のデスクに目をやると女はもうそこにはいなかった。
それから佐々木が自分の席にいないタイミングで、時折その女をみた。
僕の過去の経験上、特定の人物に執着する霊はあまり良いものとは言えない。
僕は佐々木に御祓いを進めた。
佐々木は僕に霊感があることを知っている。
だが佐々木は、根っからの心霊現象否定論者だ。
それでもせめて、佐々木が不幸にならないようにと、とある筋からもらった御札を肌身離さず持っているようにとお願いし、佐々木は渋々承諾し、背広の胸ポケットに忍ばせた。
僕がその女を見てから3か月近くが経とうとしていた。
僕は取引先との会議が長引き、すっかり会社に戻るのが遅くなってしまった。
会社に戻ると先輩社員たちや上司が、ざわざわとしていた。
聞く話によると、佐々木に彼女ができたらいい。
だが、ざわついていた理由はそれとは別の理由にあった。
先輩たちが言うには、佐々木が頻りに携帯の写真フォルダを見るから何かあったのかと問い詰めると、彼女ができたと白状したらしい。
署内では佐々木の彼女の話で持ち切りになり、先輩社員たちが佐々木の彼女の写真を見たがったので佐々木は照れながらもスマホを取り出し、彼女の写真を見せてくれたそうだ。
先輩たちはその写真をみて驚愕した。
映っているのは、薄暗い部屋に一人で自撮りをする佐々木の姿しか映っていない。
先輩たちが、「彼女は映っていない」と指摘しても、彼女の名前を聞いても、佐々木は全くのうわの空で不気味に携帯の画面をニヤニヤと眺めていたらしい。
真偽を確認しようにも佐々木はもう帰社してしまっていた。
先輩たちに、僕が佐々木と仲がいいから最近変わったことはなかったかと根掘り葉掘り聞かれたが、あの女のことは黙っておいた。
今思えば、佐々木はこの頃から少しずつおかしくなっていた。
もともと仕事熱心だった佐々木が、小さなミスが目立つようになり、お得意先の取引先にも出禁になる始末だった。
ガタイの良かった体格も今ではすっかり痩せこけ、以前の風貌は微塵も感じさせない。
終いには、無断欠勤や遅刻をするようになり、ある日上司にひどく怒られ、落ち込んでいた佐々木を少しでも元気づけようと、飲みに誘った。
入社当初の話をつまみに、次々とお互いグラスを空にした。
そして話題は、彼女の話になった。

























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