もう10年以上も前になるのだろうか。当時山あいの高校へ通っていた私は、週末の度に釣りやサイクリング、山歩きなど地元が田舎町である恩恵を享受していた。
その中でも特に凝っていたのは心霊スポット巡りであった。自慢のマウンテンバイクを駆り、近所を始め隣町のスポットまで制覇していった。
ネットにて調べ、実際にその場所へ赴く。大抵のスポットは暴走族や不良の類いがたむろしていたり、ホームレスが居たりする。彼らが居なくても、落書きや酒瓶等のゴミが山積されている場合が多い。地元の人々には恐れられていても、実際はなんてことない。そういったケースが殆どである。
しかし、中にはとんでもない「当たり」も存在する。
これは私が、その「当たり」を引いた話である。
当時の高校に、私と同じようにオカルトが好きなAという友人がいた。知り合ったきっかけは、高校のクラスで伝承や民話系の本を読んでいた時の事だ。向こうから「オカルトが好きなのかい?」と尋ねられたのだ。
心霊系の番組を観る層は多くとも、民話や伝承、民俗学的な興味を持つ人間はそう多くない。すぐに私と彼は意気投合した。
Aにいいスポットは無いか、と尋ねる。
その時の私は「ハズレ」のスポットばかり引いていた。とっくに取り壊された廃ホテルや家屋は良いとして、中には「一家心中が起きた廃屋」と聞いてやってきたら、なんの変哲もない、一世帯が何事もなく在住している家だったこともあった。要するにネットの情報に騙されたわけだ。
そうした事もあり、私自身の情報収集能力に限界を感じたのだ。
するとAは、「地元の山の麓にある廃屋はどうか」と言った。
私は驚いた。何故なら近所のスポットはとっくに周り終わったものだと思っていたからだ。そんな場所あっただろうか。しかしAが言うには、普段は誰も立ち寄らない、散歩コースを少し外れて進んだ所に有るのだという。
近所ならば行ってみるしかない。私はその日の夜、行く事にした。
深夜2時頃だろうか。私は例の散歩道にマウンテンバイクを隠し、外れた所を歩いていた。こんな深夜にしたのは、補導される可能性があったからだ。夜10時から12時迄は、コンビニや住宅街を地元の学校職員が見回っている。こんな山まで来るとは思えなかったが、バレると面倒な事になる。それに何かが起こるのなら、丑三つ時と相場が決まっている。
しばらく歩いていると、道のりが岩や草むらで険しくなっていった。ヘッドライトの光は前方5メートル程度しか照らさ無かったが、月明かりがぼんやりと夜の山道を照らしていたので迷わず進んで行けた。虫やフクロウの鳴き声が静かに響き、地面を蹴り草をかき分ける私の足音が騒々しく響いた。
10分程度歩いて行くと、突然草木の生えていない、見渡しのいい開けた場所に出会った。
舗装されているのかと見間違うほど綺麗に草木の類が生えておらず、円形に広がっていた。その平地の中心には、確かに古ぼけた三角屋根の小屋のようなものが鎮座していた。
ここか。私は確信する。
だが見たところ少し汚い外観をしているが、誰かの所有物ではないだろうか?この整備されたような土地も含め、地元の人が物置か何かに使っているのではないだろうか。だとしたら少しばかり行き来が難儀ではあるが…恐らく地元の猟友会か自治体かの物置だろう。そういえばここらでは小学校の行事で、児童が登山をするといった催しがある。それの関連の設備だろう。
なんだAのやつ、俺を騙しやがったな。きっと明日は笑われるだろう。「律儀にあんな場所に行ったのかい?」なんて言いながら。
だがここまで来てそのまますごすごと帰る訳にも行かない。少し見て回るか。そう思い、小屋へと近付いた。
小屋から10メートル程の地点まで歩いた。すると、朽ち果てた杭の様なものが、地面に突き刺さっていた。
なんだこれは。周囲を見ると、等間隔に同じようなものが刺さっている。傾いていたり、折れていたりと様子はまちまちだった。
きっと小屋を囲む為の柵か何かだ。動物に荒らされたらたまったものではないだろう。気にせずそのまま杭を跨いで小屋へ近づく。その時、
ぞくり
とした感覚が私の全身を撫ぜた。
全身が泡立つ。ぬめっとした、悪意に満ちた視線のようなものが向けられた気がした。
先程まで聞こえていた自然の音がしない事に気付く。不自然な程の静寂の中で、私の心臓がバクバクと音を立てていた。
ここはヤバい。心霊スポット巡りで培われたほんの小さな野生の勘が、全力で警鐘を鳴らしている。
本能的な忌避が働く。体が逃げろと言っている。
どこかで読んだことある文体
作家さんかな
意味わかんなくて怖い