亡くなった祖父の実家は田舎の大きな苺農家だった。大きな茅葺き屋根の、囲炉裏や土間や井戸がある薄暗い家が小さい頃の私には恐怖と興味の場所で
祖父の兄はハゲつるで丹前を着て囲炉裏の前に座る姿は「ぬらりひょん」のような怖さだった
敷地内は母屋の他に農家らしく農機具小屋や離れや蔵があり、幼少期を祖父母に育てられた私にとってそこは祖父母が親戚とお茶飲み話をする間の探検(お化け屋敷的)場所だった
暗くなると裸電球程度の明かりしかなく(今思うと部屋が広すぎて照明の光が届かなかったと思う)部屋の隅や黒い木の柱や梁の裏側はほぼ闇だった
そんな祖父の実家では、良く妖怪のようなモノを見た。例えば梁の上に毛むくじゃらの人の頭大の生き物が沢山並んで雀のようにチュンチュン鳴いていた。たまに足を滑らせて落ちてくるのだが明かりが届く範囲に来るとフワッと消えた
またある時は縁側の廊下の奥に大きなブヨブヨとした、身長にすると大人の背丈くらいの水のような石のような不思議な塊が廊下を塞いでいて、私はその奥に行けなかった(後に知ったが奥は仏間だった上に寝たきりのお婆さんが寝ていたらしい)
他にも縁下には高さギリギリの大きさの赤いカエルがいたり、庭(とても広く真ん中が日本庭園のようになっていた)の隅では湿った土の中から白い手が何本も生えていて「あっちに行け!!」とばかりにシッシッをされたり
外井戸(釣瓶があった)の中を覗くと、底の水の中から白い顔の女性が怒った顔で睨んできたり、蔵の中で遊んでいたら沢山の古い箱や箪笥の奥に市松人形が5人並んでいた「出て行きなさい!!」と怒られたり
かと思えば話せる猫が私が積み上げた石(日本庭園風の通り道に敷かれた砕石)を壊してはウヒヒッと笑われ、また積み上げては壊してウヒヒッ…と笑われながら遊んだり。市松人形のいる蔵(入口の光が届く範囲)ではたまに奥から手毬が転がってきて、転がして返すとまた戻ってくる。と遊ぶ事もあった
とにかく大人ばかりの親戚の家は子供にとっては居場所が無く、注意を聞かず色々な場所を探検したが、今思うとみな私が危険な所に行く事を止めてくれたり、一人ぼっちで遊んでいるとちょっかいを出してくれたんだな…と思うし
何より怖いけど楽しい記憶が沢山あったので、もしこれが妖怪だとしたら私はあの頃あの家に沢山の妖怪の友達がいたのかもしれない
大人になって、祖父の葬式の時に母と祖母とで何十年も行っていない祖父の実家の懐かしい話をした。私は昨日の事のように間取りや置いてあった物を覚えているのに、母や祖母は知らない。覚えていない。と言う事が沢山あった
その中で判明したのが、祖父の実家は裕福な豪農だったので女の子が産まれると市松人形を買い、蔵の中には数体箱に入って仕舞われてた事(持ち主は何代も前で嫁いで行った娘達)
祖父の兄(ぬらりひょん)は大の猫好きだったけど、可愛がっていた猫が亡くなって(私の産まれる前)から二度と飼わなかった事。外井戸は当時既に蓋が固定されて開かなかった事など…
今は母の従兄弟も亡くなり、ぬらりひょんの孫が跡を継いでいて土間や井戸や囲炉裏の無い綺麗な豪邸に建て替えられているのだけど
祖母や母に昔の不思議な記憶を話すと「あの古い家なら妖怪がいてもおかしくないね」と笑いながら納得された
























何かノスタルジーを感じで良い話