ハリガネムシって知ってる?
カマキリなんかの昆虫に寄生してて、宿主を水に浸けたりするとにゅるっと出てくるあの虫。
なんでも宿主の脳を支配して水辺に誘導するんだってさ。なんか気持ち悪いよな。
でも子供の頃の自分にとっては好奇心、興味の対象でさ。
カマキリの尻から、どこに収まってたんだってくらい長い、黒いうねうねしたのが出てくるのが不思議で面白くて。
生まれ育ったのが田舎だったこともあって、娯楽も少ないし虫もいっぱいいたから毎日のようにカマキリ捕まえては水に浸けてたなあ。
あの日、あれに出遭ってしまうまでは。
俺の地元は大きな川に面した地域で、幼いころからよく泳ぎにいったり、川魚釣って食べたりとにかく生活の中に川があったわけ。
普段は近所の子供が遊び場に使うような川なんだけど、近くに山があって、天気の荒れた日やその翌日なんかは、一気に水位が増して危ないから絶対に近づくなって、小さいころから親に口酸っぱく言われてたな。
川の周辺には河童伝説なんかもあって、実際にそんな話が生まれるくらいには昔からずっと水難事故が多発してたらしい。
どうも被害者は地元の人間が多かったみたいだ。
たまに顔見知りの水死体が上がったって話は何度か聞いてたけど、大人たちが子供を絶対に近寄らせなかったから、それまで実物の水死体を見たことはなかった。
でも子供ってさ、好奇心すごいし、隠されるとやっぱり見たくなるもんじゃん。
俺が中学に上がった年だったか、大きな台風があったその一週間後、友達3人と連れ立って水死体探しにでかけたんだ。
なんでも近所の釣り好きのおっちゃんのが台風の夜から行方知れずになってるらしい。
もしかしたら…なんて不謹慎だけど、淡い期待を抱きつつ、大人たちの見張りの目が緩まるのを待って行動した。
日も傾き夕暮れ時、大人の目をすり抜けて川に近づくのはなかなか大変でハラハラもしたが、薄闇の降りた葦や蒲生の間を、みんなでこっそり息を殺しながら進む状況は、冒険心を煽り、「スニーキングミッション!」って感じでなんだか興奮したのを覚えてる。
まあでも、普通に考えて水死体と出逢える確率なんてそんなに高くないよな。
俺たち誰もが心の底では、本当に見つけてしまうなんて思ってなかった。と思う。
その水死体は突然現れた。
見つけたのは友達の一人だった。
悲鳴に近い鋭く震えた声に、俺は川を振り仰ぎ、
視界に入ったそれを、はじめは人だとは思わなかった。思えなかった。
やけに青白くて、ぶくぶく膨れていて。
学校の解剖実験のとき使ったカエルのお腹みたいだと思った。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。