兄貴が死んだ。
つい二ヶ月ほど前に一緒に飲みに出かけて、たくさん話をして、たくさん笑った。そんな兄が、真っ暗な部屋の中、両目を潰して、腹を裂いて、自分の内蔵で顔を覆って死んだ。
殺人が疑われ、色々捜査されたが、鍵のかかったアパートの自室だったので、結局自殺と片付けられた。
両親は俺がガキの頃事故で死に、兄だけが肉親だった。確かに大変なことも多かったし、苦労も沢山かけたが、自殺をするような男では無いと確信していた。
俺は納得がいかなかった。だが、国家の犬風情はそれ以上何も動こうとしなかった。
ある大雨の日。俺は日が沈むまで血みどろになった兄の部屋の遺品を整理していた。兄貴の書斎の机の棚の中に、隠しスペースを見つけた。その中には新しめの日記帳があった。兄貴にも、人に見られたくないものがあるんだなと思った。
兄は几帳面で真面目な人で、日記をつけていることになんの違和感も覚えなかった。警察はおそらく、隠しスペースに気がつけなかったのだろう。
兄貴の死の真相に近づけるような気がして、俺は日記帳をパラパラと捲る。外では雨が屋根を叩く音だけが鳴り響いている。
最初はただの日常を書き綴ったものだった。しかし、ある日付のものから気になることを書き始めていた。
**********
▉月▉日
今日は台風のせいで停電が起こった。夜だったし、部屋の中は完全な暗闇。
勘弁してくれよ、早く復旧してくれ。そう思って、読んでいた本を閉じると、暗闇に気配がした。
何かいる。そう感じたんだ。多分、急に暗くなって怖かったんだな、電気は直ぐに復旧して、明るくなった時は何もいなかったし。歳をとるとビビりになるもんだな。
▉月▉日
最近暗いところがダメだ。どうしても何かいる気がしてしまう。何もいないのにな。
▉月▉日
部屋を暗くすると、何かが俺をずっと見ているような気がして眠れない。どうしたんだよ俺。何もいねえよ。そう言い聞かせても、絶対そこに何かいるんだ。
結局部屋の電気はつけたまま寝ることにした。情けない。
▉月▉日
ダメだ。やっぱ暗闇には居る。仕事場からタクシー使わずに歩いて帰ってると姿は見えないのに足音が聞こえた。俺が止まるとそいつも止まる。俺が走るとそいつも走る。怖くて家についてすぐ鍵かけた。そんで電気つけるまでの間に聞こえたんだよ。誰かの荒い呼吸が。ほんとどうなってるんだ。
▉月▉日
電気は消せない。電気を消すと現れるから。目が。
じっとこっちを見てやがる。
▉月▉日
いままで暗いところはこわいとおもってたよ
でもそうじゃなかったんだ。あいつが教えてくれた。
あいつは俺の知らないことを沢山知ってて、話の合う、良い奴なんだ。電気はもうずっと付けてない。
▉月▉日
























やすむら「あんしんしてください、くらいですよ」
電気代を節約してたってコト!?