「この前、初めて金縛りになったんだよね。でも、ちょっと楽しくてさ」
「怖かったんじゃなくて?」
「うん。みんな怖いことを想像しちゃうから怖くなっちゃうとおもんだよね」
高校の友人であるS君が話してくれた。
とある月の上旬にS君と会う約束をしていたのだが、体調を崩したとのことで別日に振り返ることにした。
この話はその体調を崩していた時に体験した話である。
ひとり、自室で寝ていると夜中に目が覚めた。
右を向いた体勢で、目の前には開きっぱなしのクローゼットが見える。見慣れた景色ではあるのだが、ひとつだけいつもと違うことがあった。
体が動かない。いわゆる金縛りの状態。
ただ、不思議と怖さは感じなかった。というよりもむしろ、その変わった状態に少し面白さを感じていた。胸元を見てみると、何かを受け取るときのように両手を広げている。
細くて白い手。
その手は、自分のものではない。
しかしそこにも怖さを感じることはなく、S君は何故か
「もしかしたら思い通りになるかもしれない」
「上に‥上に‥」
と心の中で唱えてみたのだ。するとその手は上へ上へと思い通りに上がっていく。これをいいことに、次は体が浮くことを心の中で唱えてみた。するとどんどん天井に近づいていくのがわかり、二度目の成功体験に再び興味深さを感じた。
「怖いことを想像してみたらどうなるんだろ」
成功事例をもとに自分にとって怖いことを想像してみると、今寝ている部屋と隣の部屋を遮っている扉が開いた。隣の部屋には子供が寝ている。
開いた扉の向こう、そこには部屋いっぱいに広がる大きな口が見えた。するとその大きな口に見合ったサイズの舌が、カエルがエサを食べるときのように伸びてきて、自分の体にまとわりつくのだ。そのまま飲み込まれそうになったとき、目が覚めた。
「肉体労働をした後みたいに凄く疲れてたんだよね」
胸の前にあった白い手と、大きな口の意味とは一体。
その疲労感は、大きな舌に抗おうとしていたからなのかもしれない。




















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