完結型の祟り
投稿者:骸梟 (2)
病院って、警察の来院が時々あるんだ。
大抵体調が良くない人が来る場所なわけだからさ、言い方は悪いけど死にやすそうな人が相対的に多くなる。
それでもって実際に死んだ時、死因が内的なものなのか外的なものなのか、確認のために訪問する姿は、私が働いていた病院でも月に1、2回は見る光景だった。
やり取りは刑事ドラマとそっくり。
「○○警察署○○科の○○です」ってしっかり手帳を見せるしアポも取るから、むしろドラマより丁寧かもしれない。患者さんの診察状況を書いた医師の所見の作成だってタダじゃないし、まあ当然と言えば当然だろう。
「(あ、また警察来てるな…)」
チラリと視線を飛ばすだけ飛ばして、特に気にも留めず黙々と書類をさばいていたんだけれど、暫くして急に上司から呼ばれたんだ。
個人面談の時期にはまだ早くないかなと思いつつ個室に入ると、なぜか例の警察官達が座っていた。
「こんにちは~」とにこやかに挨拶を交わす。それぞれの自己紹介もそこそこに入った本題で、私はとある質問をされることになる。
「この人とお電話されましたか?」
だってさ。
写し出された写真の中の人物と名前には見覚えがあった。つい先日、私がクレーム対応した人じゃないか。
問題になったのは、本人の目当ての薬が処方されてなかったから。くだらないだろう?
Dr.も「この人にはもう必要がない薬だから処方しなかった」ってちゃんとした理由もあったんだけど、当人からしたら知ったことではないらしい。
しかもよりにもよって『先生は間違わない。対応した事務が悪い』なんて、病院勤務をしていれば一定数見かけるとんでも理論の持ち主だった。
受付をしたのが私という電子記録が残っていたため、かれこれ1時間半は終業時刻が過ぎても電話対応をするハメになった。クレームと関係ない身の上話までされて、ホント疲れたよ。
残って様子を見ていた上司が、残業代付をけてくれたから良かったけどさ(上司なら代わりに対応してくれよ…とは言わないでおく。ストレスが頭皮にきている人だったし。)
そうした経緯も含めて、警察の人に説明をした。…んだがどうにも挙動がおかしいというか、「電話に出たのはこの男性で間違いないですね?」と何度も確認をとられたのを覚えている。
警察が帰った後、上司にはその患者さんに関連することで、それとなく何があったか聞いてみたんだけど…そりゃあ挙動不審にもなるなって話をされた。
警察が来る3日前、その患者さんが玄関先で引っくり返ってるのを、高齢者宅の見回りをしてる役所の職員が見つけたそうな。
発見時点で死後数日が経過していたことが分かったのだが、右手に握り締められていたガラケーには、ウチの病院宛てに何件も発信履歴が残っていた。そうしたいきさつもあって、事情を確認に来たらしい。
でもさ、おかしいんだよ。
電話の着信履歴が亡くなってるとおぼしき時もあったみたいで、そのうち私がクレームの電話をとったの…4日前なんだ。
確実に死んでるタイミングでの着信じゃんか。
「死んだら祟ってやる」とはよく言うけれど、現代に落とし込んだらこんな分かりやすく陰湿になるんだなって、ちょっと笑っちゃった。
それに電話を切る前の会話で「あー…少し言いすぎた。今度から薬は先生に直接お願いするか、処方する薬を聞くことにするわ。ごめんな兄ちゃん。」って言ってから切れたんだ。
私1人で知らぬ間に、祟りを鎮めてしまっていたのかもしれないね。
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