ツンデレ占い師
投稿者:セイスケくん (13)
「あなた、勉強してますか?」
あの占い師の言葉が、今でも耳に残っている。
受験を控えた僕は、不安に駆られて街角の占い館に飛び込んだ。薄暗い店内、重たいカーテンが垂れ下がり、何かしらの異世界に迷い込んだような感覚を覚えた。占い師の女性は、目元を強調したメイクで、じっと僕を見つめる。彼女の目には、まるで全てを見透かしているかのような鋭さがあった。
「受験、受かりますか?」
それが僕の口から出た最初の言葉だった。今思えば、そんなことをわざわざ占いで尋ねること自体、馬鹿げていたかもしれない。でもその時の僕には、どうしても他人の口から「大丈夫」という言葉を聞きたかったのだ。
彼女はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑みを浮かべた。そして、問い返すように言った。
「勉強してますか?」
彼女の言葉は、予想外の質問でありながら、妙に心に突き刺さった。僕は言葉に詰まり、結局こう答えるしかなかった。
「そんなに、してません……」
その答えを聞いた瞬間、彼女の表情が冷たくなった。まるで僕の未来が既に決まっているかのように、無慈悲にこう告げた。
「勉強しないで受かるわけないでしょ」
まるで刃物で切りつけられたような感覚だった。その瞬間、僕の胸に湧き上がったのは、恥ずかしさと悔しさの入り混じった感情だった。何のためにこの店に入ったのか、自分が情けなくて仕方がなかった。
「そんなの占わなくてもわかりますよ」
彼女の言葉は最後の一撃だった。心の中で「それなら、占いなんて必要ないじゃないか」と叫びたかった。でも、声にはならなかった。店を出ると、冷たい風が頬に当たり、僕はただうつむいて歩き出した。
その夜、僕は眠れなかった。彼女の言葉が何度も頭の中を巡り、瞼の裏に浮かんで消える。「勉強しないで受かるわけないでしょ」。それはまるで呪文のように、僕の心に重くのしかかっていた。
翌朝、目が覚めると、僕は机に向かった。初めて真剣に勉強に取り組んだ。目の前の問題集がどれほど難しくても、手が止まることはなかった。まるで何かに取り憑かれたかのように、僕はひたすら勉強を続けた。いつしか夜が明け、また夜が来る。気づけば時間は容赦なく流れていったが、僕は止まらなかった。
そして、試験の日がやってきた。
試験会場の緊張感の中で、僕は自分の中に芽生えた変化を感じていた。あの冷たい占い師の言葉は、単なる拒絶ではなく、僕への挑戦だったのだと気づいた。自分がどう行動するかで、運命は変えられるのだと。
結果発表の日、僕は掲示板の前に立っていた。手が震えていたが、勇気を出して自分の受験番号を探した。数秒後、信じられない光景が目に飛び込んできた。そこには、確かに僕の番号が載っていたのだ。
その瞬間、心の中に安堵と達成感が押し寄せてきた。あの占い師に会いに行きたくなった。彼女に、この結果を見せたくてたまらなかった。だが、いつの間にか彼女の店は消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように。
それでも僕は、彼女の言葉が僕を救ったことを忘れない。冷たい一言が、僕の運命を変えたのだと。
今でも時々思い出す。彼女が一体何者だったのか。あれは単なる偶然だったのか、それとも僕の人生を見通していたのか。真実はわからないままだが、ただ一つ確かなことがある。
運命は、自分の手で切り開くものだということだ。
合格おめでとうございました。
冷たいのに、とても温かい言葉でしたね。