ヘナコ
投稿者:セイスケくん (13)
俺は子供の頃、東北の山奥の小さな村に住んでいたんだけど、田舎ならではの習俗に囲まれて育ったんだよね。村は四方を山々に囲まれていて、まるで外界から隔絶された場所だった。村人たちは古い風習を大切にしていて、特に夜間の外出は絶対に避けるっていう習慣があったんだ。その理由は「ヘナコ」と呼ばれる存在が現れるからだって言われてたんだよ。
ヘナコは夜になると山の中から出てきて、村を徘徊するって話。子供の頃からその話を聞いて育った俺達は、絶対に夜に外には出なかったんだ。でも、ある夏の夜に、その禁忌を破ることになってしまったんだ。
その夜、友人たちと遅くまで話し込んでしまって、気がつけば深夜を過ぎてたんだよね。帰り道を急ぎながらも、村の静けさと月明かりの美しさに心を奪われて、ふと立ち止まっちゃったんだ。その時、背後から何かの気配を感じたんだ。振り返ると、そこには黒い影がゆらゆらと揺れていたんだよ。
心臓が跳ね上がって、冷や汗が背中を伝った。影はゆっくりと俺に近づいてくるんだ。逃げようとしたけど、足がすくんで動けなかった。影は次第に形を成して、人の姿になっていったんだ。それは、古びた衣装をまとった老婆の姿だった。目が合うと、老婆はにやりと笑って、手を伸ばしてきたんだ。
もう無我夢中で逃げ出したよ。家にたどり着くと、両親が心配そうに待ってた。事情を話すと、父は深刻な顔で「ヘナコに出会ったのか」と言ったんだ。それ以来、俺は夜に外出することを一切やめた。
でも、ヘナコの影響はそれだけじゃ終わらなかったんだ。数週間後、村の友人たちが次々と奇妙な行動をとるようになったんだよ。夜中にふらふらと歩き回ったり、無意味なことを呟いたりするんだ。まるで何かに操られているかのようだった。村全体が不気味な雰囲気に包まれて、誰もが怯えながら日々を過ごしてた。
ある日、村の長老が全員を集めて、ヘナコに対抗するための古い儀式を行うことを決めたんだ。儀式は山中の神社で行われて、村の全員が参加した。長老が唱える古い祈りの言葉に合わせて、皆が一心に祈ったんだ。
その夜、儀式が終わって村に戻る途中で、俺は再びあの影を見たんだ。でも、今回は恐怖ではなく、どこか哀れみを感じたんだよ。影は俺達に別れを告げるかのように消えていったんだ。
村に戻ると、奇妙な行動をとっていた友人たちも元に戻ってた。ヘナコの恐怖は去って、村には再び平穏が訪れたんだ。でも、あの影の存在を忘れることはできないんだよね。今でも夜になると、あの影がどこかで見守っているんじゃないかって気がしてならないんだ。
この経験は、俺にとって一生忘れられないものとなった。田舎の山奥で育った俺は、古い習俗とその背後にある恐怖を深く心に刻んだんだ。ヘナコが何者であったのか、その正体は未だに分からない。でも、その存在が現実であったことは間違いない。
田舎の怖い話は面白いです。