【short_78】黒いラーメン

入院する祖父を見舞いに行った。思いのほか元気そうで安心した。
ただ、病院の飯がマズイと文句を言っていた。

また来るからと言って病室を後にした。・・・そう言えば腹が減った。
祖父から、この病院の地下に２４時間営業の食堂があるという話を聞いた。
祖父もこっそり病室を抜け出して行ってみたが、ラーメンがうまかったらしい。
ちょうど良いので帰る前に試しに一度寄ってみることにした。
エレベーターで地下二階まで降りる。

明るかった院内とは裏腹に、蛍光灯が１本ずつしか並んでいない暗い廊下に出た。
壁は白とモスグリーン。床はPタイルで、一気に昭和になった雰囲気だ。

歩いて行くと霊安室と書かれた鉄扉の部屋に出くわした。
「えっ・・・」
道を間違えたのだろうか。霊安室に並ぶ食堂なんてものが本当にあるのだろうか・・・。

さらに歩を進めると、確かに食堂があった。ここも薄暗く、扉はなく、誰でも入ることができる作りだ。それにしても暗い・・・。それでもせっかくここまで来たのだ。入ってみる。

食堂に入ると、店主らしきオヤジがぼそりと「食券でおねがいします・・・」と言う。

「ラーメン」「サンドイッチ」「稲荷ずし」「コーヒー」・・・なんだかコレと言ったものが無い。とりあえず、祖父がうまいと言っていたラーメンを買った。250円。

・・・しばし待つ・・・。それにしても、ランチタイムだと言うのに他の客がいない。
「ラーメンのお客さん・・・おまち」　呼ばれた。セルフで取りに行く仕組みだ。

なんだろう、真っ黒なスープだ。シナチクとネギ、あと、よくわからない黒いものが入っていた。黒いスープをすすってみると、マズイ。なんとも生臭い。麺を喰ってみる。マズイ。なんだこれは・・・さっきの黒い塊を箸で掴んでよく見てみる。・・・虫だ。コオロギか?イナゴか?・・・まさか、ゴキ・・・。吐き気がする!

ボクは我慢ならず、店主に文句を言おうと厨房を覗いた。
店主が皿洗いをしている。自分の舌でベロベロとどんぶりを舐め回していた。

「うわぁあぁ」ボクは逃げた。扉を開けて外に出る。「ん?・・・扉?」
確か入って来た時には扉はなかったはずだ。
振り返ってみると、その扉には「霊安室」と書かれていた。