月明かりと呪い
投稿者:嵐山ノキ (3)
Eさんが小学生の頃の話だという。
彼女の親戚はお寺を運営しており、Eさんも正月やお盆など何かと訪れる機会が多かった。寺と家がつながっており、親戚はそちらに住んでいるわけである。Eさんからすると行事の折というよりも遊びに行っていた感覚が強かった。
山の近くにあり敷地もかなり広く、本堂と参道の他はお墓と駐車場、そしてそれ以外は森だった。森の部分はいずれ墓場にするのだと聞いたことがあったような気がするが、とにかくその時点では手入れのされていない森が広がっていた。
「昼間に行くことが多かったので、特に怖いとも思っていませんでした」
Eさんは当時を思い起こす。
お寺へは毎回親の車に乗せられて行くばかりだったが、成長するにつれて自分の家から自転車でも行けることがわかってきた。
「ねえ、夏だから一回ぐらい肝試しがしたいよね」
夏休みの直前、クラスの仲の良い友人達とEさんはそのような話をした。
皆が乗り気であったため子どもらしい肝試しが開催される運びとなるのだが、場所だけが決まっていなかった。
「あ……じゃあ、うちの親戚がお寺やってるから」
Eさんは名乗りを上げてしまう。深く考えてのことではなかった。そしてその通りに場所が決定された。
肝試しの当日になった。
人数はEさんを含めた仲良し4人。夜の21時にお寺の前に集まった。
月が普段より大きく見える夜だ。月明かりが足元を照らしているので少しだけ安心感があった。
すでに小学生が出歩いていい時間ではないが、同じ日に学区内の公民館で催しがあるためそれに参加すると親にそれぞれ嘘をついてきたのである。
夜のわずかな時間だけと考え、Eさんは本来話を通すべき親戚にも内緒で肝試しを行うつもりだった。
「森の中を懐中電灯を持って一周して帰ってくるんだよ」
友達の1人が決めた。親戚に無断でやるため、Eさんは特別な準備もできなかった。
たとえ一周せずに途中で帰ってくるにしても、それなりの時間を暗い森の中で単独で過ごすわけだから肝試しの趣旨とは合うということで全員の了承があった。
ただ、直前になっていちゃもんがつく。
「でも、Eちゃんは自分の親戚のお寺だから怖くないし、ただ歩いてても肝試しにならないよね」
1人が言い出した。
「うん、ずるいよ」
他の友人も同調した。場所を提供したのにずるいとはずいぶんな言われようだと思ったが、子ども心にEさんは成果を出して見返したいという気持ちになった。
「じゃあ、森の中に何かお札とかろうそくとか落ちてるかもしれないから、それを拾って持ってくるよ。見つかるまで探すから怖くなるはずだよ」
Eさんは提案する。
「まあ、それならいいか。あまり待ってて遅くなっても嫌だから、探しても見つからなかったら戻ってきなよ」
少しの助け船があったが、とにかくEさんにだけノルマが設定された。
肝試しが始まり40分ほど経った。3人がそれぞれ懐中電灯を携えて森の中を回って戻ってきていた。
お寺の周辺の地面にライトが設置されているのと、この日は月が明るかったのもあって誰も森の中で迷わなかった。森で適当に歩いて、頃合いを見てライトの光がある方へ戻ればいいのだから。
ただ、最後がEさんだった。彼女の番になったときにまたもルール変更が入る。
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