山から降りて来る人間
投稿者:おれんじオレンジ (4)
同じ体験をした人がいたら教えてくだい。
俺の地元、岐阜で起きた話です。
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10年ほど前。
大学受験生の俺は同じクラスのA君に勉強を教えてもらうことになった。
(恐らく、名前を明記してもアナタは覚えていないかもしれないです)
俺は普段A君とあまり話さなかったが
彼はクラスで1番頭が良く、
反対に俺は1番ドベだったので
週末に勉強を教えてもらうことにした。
その週末、お互い勉強に夢中になって、気がつけば沈む夕日の光が眩しかった。
俺たちは勉強を終えて地区図書館を出た。
「家帰るの大変じゃない?」とA君。
当時、俺の交通手段はチャリ。
図書館は美濃地方にあったが、
俺の家はそこからチャリで1時間ほど
飛騨方面へ昇る。
「どうせ、明日も一緒に勉強する予定なんだから泊まってかない?」
チャリで俺の家まで往復する時間がもったいないので、どうせならと、俺はA君の言葉に甘えた。
山々に反響するひぐらしの鳴き声に包み込まれ、
その音に引っ張れるように自転車を漕ぐA君の背中を追った。そして長良川を越えて一段と鳴き声が増す。
ほどなくしてA君の家に到着した。
彼の家は純和風のお屋敷だった。
先祖は大百姓だったのだろうか。
裏庭にある蔵も、家の門も痛まず手入れが施されている文化財といった印象だ。
壮大だと感じたが、どこか虚無的だとも感じた。
そう感じたのも、
その屋敷の裏山から響くひぐらしの鳴き声のせいだろうと10年前は自分で勝手に解釈していたが、
今年、10年ぶりにこの屋敷に訪れたら、
昔の方が不気味だったのかもしれない。と思った。
たとえ、今はこの屋敷が廃墟になっていても。
この屋敷自体に何も感じることはもう無かった。
写真に写っているのに、A君を知らないとは不思議でたまらない