不気味な同棲
投稿者:ねこじろう (147)
年末の頃、会社の同僚で友人のM代から鍋パーティーの誘いを受けた。
正直、行きたくなかった。
でもM代とは同じ短大を卒業して、同じ建設会社の同じ部署に就職し、ちょくちょく一緒に遊んだりしていたし、彼女に関しては心配なことがあったものだから、行くことにした。
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私もM代も今年三十路になるが、未だ独身だ。
私にはかれこれ5年ほど彼氏はいないが、M代には去年まで「涼太」という同じ年の彼氏がいた。
茶髪の前髪を眉の上辺りで切り揃えた、いつも陽気で元気な男。
「去年まで」と言ったのは涼太は去年の末、電車に跳ねられ即死したのだ。
それは去年のクリスマスの夜、同じ会社で別の部署のS美とその彼氏、そしてM代と涼太という2組のカップルで一緒に遊んでディナーをした帰りに、駅のプラットホームで電車待ちをしていた時だったという。
4人ともかなり酔っていてホームでふざけあっている時、泥酔していてバランスを崩した涼太が間の悪いことに、列車が通過する寸前に線路に落下してしまった。
あっという間のことだったという。
涼太は通過列車に体ごとまともに衝突してしまう。
現場はかなり凄惨な状況だったそうだ。
一緒にいたS美が言うには、あちこちに血が飛び散り、涼太の体の幾つかのパーツが無造作にホームに散らばっていたらしい。
M代はひざまずき涼太の腕を胸に抱いて、狂ったように泣き叫んでいたそうで、それは正に生き地獄を見ているようだったという。
そのショックからM代の精神は病み、その言動は傍目からも常軌を逸するようになってきていて、ここ最近はずっと会社を休んでいる。
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繁華街の外れにある古びたマンション。
外壁は薄汚れていて、あちこちヒビの入ったところがある。
その4階角部屋にM代は住んでいる。
すっかり日が落ち薄暗くなった渡り廊下を歩くと、私は406号室の前に立ちドア横のボタンを押した。
ピンポーン、、、
しばらくするとボタン下のインターホンから「はい」という声の後、「鍵開いてるから入ってきて」と続いた。
言われたとおりドアを開く。
玄関口には黒のパンプスとピンクのサンダル。そして男ものの黒のエンジニアブーツが並べてある。
薄暗い廊下に沿って幾つかの部屋が並んでいて、突き当たりにはリビングに続くドアがある。
「お邪魔します」と一声かけると靴を脱ぎ、廊下を真っ直ぐ進むとリビングのドアを開いた。
8帖ほどの部屋の真ん中辺りにあるダイニングテーブルには、既に鍋料理の準備がされていた。
奥のサッシ戸を背にして座るM代の姿が見える。
真っ黒い喪服のような服を着ており、黒髪はボサボサで化粧もしておらず、別人のようにげっそり痩せていた。
え?彼氏生きてんの?
無敵じゃん。電車に勝つとかスゴいな
とんでもない世界に入り込んでしまったような怖さがありました。
よかったじゃん。彼氏生きてて。
まぁ、俺も全身バラバラになる程度じゃ死なないからなー。