深夜のコンビニ
投稿者:take (96)
D君は大学時代、地方から出て一人暮らしをしていました。
親元を離れて、開放感に浸り、気楽な毎日を謳歌していました。
明日は昼から講義に出ればいいや、とその日も夜遅くまでゲームをしていました。
ちょっとお腹も空いたことだし、散歩がてらコンビニでもいこうと部屋を出ました。
たまには別のコンビニへ行ってみるか、と少し離れた店舗へ足を向けました。
店内に客はいませんでした。
しばらく雑誌を立ち読みして、サンドイッチとコーヒーを手に取ってレジに向かうと、
二つあるレジのうち、一台だけ開けているようで、その前に一人の女性客が立っていました。
客は俺一人だったはずなのに、いつの間に?
と思いつつ、フォーク型並びを誘導する床の矢印の上に立っていると、商品整理をしていた店員さんが、女性客が立っている方とは違うレジに入り、「こちらへどうぞ」と言います。
え、前にいる人は?
と思いましたが、店員さんは完全に女性を無視して、D君に目を向けています。
恐る恐るレジの前へ行き、会計してもらっている間に、女性を横目で見ました。
俯き加減で長い黒髪が顔を隠し、色褪せたフリースのトップスとジーンズにファーのついたブーツ。
季節はTシャツ一枚でも汗ばむほどの夏です。
季節外れの服装、店員さんには見えていない……まさか。
正面の壁ガラスに映った店内には女性の姿はありませんでした。
ヤバい、見ちまった……。
その後、二度とその店舗に行くことはなかったそうです。
「あの人、今もレジ前で立ってるんですかねえ」
D君は少し遠い目をしてそう言いました。
怖いんですけど
怖いというよりは、なにを買いたかったのかな?