田舎暮らし
投稿者:リュウゼツラン (24)
父さんの転勤を機に、僕らは引っ越しをした。
のどかな町はとても静かで、初めて住む木造の家に僕のテンションは上がっていた。
高1の6月という中途半端な時期だったけど、木造家屋の場合、夏場は風通しが良いから丁度いいかもよと母さんは言っていた。
僕に割り当てられた二階の一室は八畳もあって、以前住んでいた四畳半の部屋と比べると倍くらいに広かった。
築年数はそれなりに経っているらいし、見た目もちょっと古臭い感じがしたけれど、住み始めてすぐに僕はこの家が気に入った。
ただ、ひとつだけ気がかりなのは、僕の部屋に貼られたお札だった。
ベッドの頭側の壁に貼られているそのお札は、なんだか禍々しくて、僕はちょっと怖かった。
でも両親は「すぐに気にならなくなるよ」とか「むしろ守ってもらってるから安心だよ」とか言っていて、僕も次第に気に留めなくなっていた。
転校先の学校ではいい人が多くて、馴染むのも早かった。特に、最初に声を掛けてくれた雄太とは昔からの親友みたいに仲良くなって、お互いの家にしょっちゅう行き来するようになった。
片親の雄太は毎日のようにアルバイトをしていて、忙しい母に代わりごはんを作ったり、弟の世話をしたりと、同じ高校生とは思えない程しっかりとしていた。
そんな雄太が僕の家に遊びに来た時、ふざけて例のお札を剥がしたことがあった。
「なにこれ? 裏になんか隠されてるんじゃないの?」
ペリペリと簡単に剥がれたソレの裏には、何もなかった。
期待を外したお札を雄太は「これ捨てちゃえば?」と言い、僕が首肯すると彼は破ってからゴミ箱に入れた。
その日から僕は物覚えが悪くなった。
というか、記憶が曖昧になった。気づけば違う場所にいたり、他人との約束を忘れてしまうようになったのだ。
でもまさか、そのお札のせいだなんてこともないだろうし、僕はただ疲れが溜まってるのかな、なんて特に気にしなかった。
夏休みを目前に控えたある日、僕はクラスメイトを殴った。
彼が片親の雄太をからかったからだ。
馬鹿にするな! と怒鳴り、初めて人を殴った僕の手は腫れてしまい、雄太は心配しながら「俺の為に、ありがとうな」と言った。
翌日、そのクラスメイトが飼っている犬がいなくなった。
家族で可愛がっていたとのことで、妹はショックで学校に行きたくないと引きこもってしまったらしい。
雄太の提案で、クラスのみんなで探すことになる。
でも放課後に数時間、町中を探したけれど、犬は見つからなかった。
帰りに僕は雄太を家に招いた。なぜか自分を責めている雄太を慰めていると、「なんかこの部屋臭くない?」と雄太は言った。僕にはその臭いが分からなくて、「さっき河原とか探し回ってる時になんか踏んだんじゃない?」と返す。
「そうかも」と雄太は立ち上がる。
「あれ、もう帰るの?」
「うん。弟にごはん作ってやらなきゃ」
「そうなんだ。じゃあまた明日」
「……」
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