橋の下の幽霊
投稿者:赤壁二世 (13)
俺が高校生の頃にちょっとだけ怖い、というか不思議な体験をした。
高校までの通学路の途中に随分と古い橋があるんだが、その橋の下にホームレスが住んでる小汚いダンボールハウスがある。
ブルーシートとかガムテープなんか駆使して作った創作感満載の小さな寝床だ。
橋の下には細めの河川が通ってて、鬱蒼と茂った河川敷の中にに潜むようにダンボールハウスがあった。
それで、その橋は通学路から少し遠目で見えるくらいの位置にあって、地元民が普段からその橋を使う事はなかった。
だから俺を含めて地元の人なんかも滅多に近寄らない場所だったんだけど、そんな忘れ去られたような橋だからホームレスが住み着いたんだろうと皆言ってた。
でもその時代はホームレス狩りが問題視されてて、ホームレスが殺害された事件は珍しくない。
当時のニュースを覚えている人もいるんじゃないだろうか。
俺は通学中に橋下に住まうホームレスを眺めるのが日課みたいになってて(今思うと奇妙だが)、ちょっとそのホームレスの事が心配になってた。
因みにそのホームレスは、遠くからだから分かんないけど、見た感じ白髪頭だったから五十代か六十代くらいだと思う。
なんか焼き芋とか売ってそうな身なりでゴミ袋みたいなの担いでるのを何度か見かけたこともある。
親から聞いた話では、低頭な男性で、本当にホームレスという一点を覗けば普通のおじさんとのこと。
だけど、そんなおじさんもある時から姿を見せなくなった。
ホームレスのおじさんの事を知ってるクラスメートや俺の両親もここ最近ホームレスを見ない事に少しだけ気掛かりみたいだったけど、所詮は他人の事だから数日で頭から抜け落ちてた。
そんな折、俺は登校中に何気なしに橋を見るとホームレスのおじさんが橋の下の原っぱから上半身だけ飛び出すように突っ立ってるのを見かけた。
「あ、おっさん無事だったか」なんて安堵してそのまま橋を過ぎたが、今思えばアレがホームレスのおじさんだったのか怪しく思っている。
と言うのも、その日帰宅してから母から聞いたんだがホームレスのおじさんは殺されたらしい。
ホームレス狩りに遭ったと聞いた。
詳細は知らんけど、バッドで袋叩きにされた後に川に半身突っ込んで死んでたとか地元では広まってる。
勿論、俺から見てもあのホームレスは何の関わりのないおじさん何だけど、何年も通学路で見かけた知らない家の犬が亡くなったような、虚無感を覚えた。
別にあのホームレスは好きでホームレスになった訳でもないだろうに、こうやって簡単に殺されるんだなと思ったら空しく思えた。
でも、ホームレスのおじさんが殺害されたのは一昨日だと聞いた俺は、すぐに「え?」と顔を上げて今日の朝に橋でホームレスを見かけた事を思いだした。
母に言おうとも思ったが、もしかしたら俺が見かけたのは全くの別人かもしれないと思って言わなかった。
因みに犯人は捕まってないそうだ。
あくる日、やっぱり例の橋の下で人が突っ立ってるのが見えた。
背格好からしてもホームレスのおじさんにそっくりなのだが、俺はおじさんが死んだ事を知っている。
つまり、あそこに居るのは別のホームレスだと思って、黙ってそっぽ向いた。
ホームレスの世界にも縄張りがあると言うし、先住者が居なくなれば別のホームレスが住む決まりかもしれないと勝手に思い込んだ。
ただ、別の日にその橋が見える場所を友達と歩いていると、俺は真実を知る事になる。
何となく習慣で橋の下を見やるとやっぱりホームレスが棒立ちしていたから、思わず友達に話題を振ったんだ。
「あそこに居るホームレス、いつもあそこで突っ立っとるけど何しとんじゃろね」
「は?どこよ」
俺が指を差して友達にホームレスの居場所を教えるも、友達はそのホームレスを見つける事が出来なかった。
この日、俺はアレが俺にだけ見えている、所謂幽霊だと知った。
アレはホームレスのおじさんの幽霊だった。
7人ミサキの1人版みたいな
親父狩り、ホームレス狩り、どちらも怖いというより、そういう事を平気でできる人間が恐ろしい!