手渡された釘
投稿者:take (96)
知人のA子さんに聞いた話です。
彼女が中学生のとき、部屋で勉強していると、クローゼットの中から、ガターン! と、大きな音がしました。
驚いて見てみると、クローゼットの中に造り付けた棚板が落ちて、載せてあった小物やぬいぐるみが散乱していました。
それはA子さんの父親が、彼女が小学生の時に取り付けたものでした。おそらく経年劣化で落ちたのだろうと思いました。
A子さんが父親に報せると、すぐ調べてくれました。
「大丈夫だ、これくらいすぐ直るよ」
父親は持ってきた道具箱から金槌や釘を取り出しました。
そんなに大きなクローゼットではないので、上半身だけを入れ、懐中電灯で照らしながら、不安定な体勢での作業だったそうで、
「お父さんもあの頃と違って太ったからなあ」とA子さんはちょっと笑いそうになりました。
喉が渇いたので、A子さんは飲み物を取りに、一階のキッチンへ行きました。
ジュースを取って戻ってくると、父親がクローゼットから出ていたので、
「もう直ったの?」
とA子さんが聞くと、父親は不思議そうに、
「A子、どこからこんな釘を持ってきたんだ?」
と言い、差し出したものをみると、それはひと握りの錆だらけでボロボロの古釘でした。
父親の話では、途中で釘が足りなくなったので、クローゼットに身体を半分入れたまま振り向かずに、
「そこの一番長い釘を持ってきて」
と、手を出すと、手のひらの上に釘が置かれました。
作業を再開しようとして、釘の手触りに違和感を覚え、クローゼットを出て改めてみると、この古釘だった、と言うのです。
しかし、そのとき、A子さんはキッチンにいて、部屋には父親一人だったのです。
いったい誰が、こんな使い物にならない釘を手渡したのか?
そもそも、こんな釘は道具箱の中には入っていません。
お互いに釈然としないまま、父親は修理を終え、A子さんは勉強を再開しました。
特にその後は何事もなかったそうですが、
「いま考えると不思議だよね……っていうか怖い、あの時はなんで平気だったんだろ」
A子さんはそう言って、ぶるッと身体を震わせました。
優しいお父さんですね。
シンプルだけど地味に怖い