鏡のない男子トイレ

私が通っていた大学の話です。

学内でも大きめの講堂の横にトイレがあり、私はその講堂で行われる講義を履修していたために頻繁に利用していたのですが、その男子トイレには何故か鏡が設置されておらず、利用者もあまり多くない印象でした。
学舎の構造的に窓から光が入りづらく薄暗い（そして学舎自体も古かったため）ため、確かにあまり気持ちのいい場所ではなかったという記憶はあります。
そのわりに手入れはされており、毎日掃除のおばさんがお掃除をしているようでしたので、使ってはいけないトイレということもないだろう、と私は数年間にわたり、利用を続けていました。

卒業が近づいた頃、大学の統合や方針転換のため、多くの学舎が次々と取り壊し・建て替えのための工事を進められていました。
そんな中、ゼミの同期達と、工事で普段の道が使えないだの学食が遠い方しか使えないといった愚痴を吐き合っていたのですが、ふと私が「そういえばあの講堂横のトイレってなんで鏡なかったんだろうね、よく使ってたけど変だよなあ」と話したところ「え、お前知らないの？」「マジ？」「ていうかあそこ使ってる人いたんだ」と口々に言われました。私は本当に何のことかわからず、俄然不安になりました。

彼らの話では、そのトイレでは過去に何度も「トイレの鏡に人影がうつる」という苦情が大学側に寄せられ、事態を重く受け止めた大学側が対応して鏡を外すことになった経緯があったようです。
私自身は怖い思いをしたことはありませんでしたが、もしかしたらいつも手を洗っている時に誰かが背後にいたのかもしれません。