おしどり夫婦
投稿者:いももち (40)
母が子どもの頃のもう何十年か前の話です。
母の家の近所にはとても優しい老夫婦が住んでいたそうです。ふたりにはお子さんがいなかったため地域の子ども達をとても可愛がり、母もよくおばあさんの手作りのお菓子をごちそうになったり、おじいさんが作った竹とんぼで遊んだりしていたそうです。
母と友だち数人で敬老の日におばあさん達の似顔絵をプレゼントしたところ、おばあさんは涙ぐんで母達を抱きしめ、おじいさんは子どもの絵には不釣り合いなくらい立派な額にいれて飾ってくれたの、と母は笑いながら言いました。
そんな優しい老夫婦に突然不幸がやってきました。おじいさんが交通事故にあい亡くなってしまったのです。
おばあさんが病院に駆けつけたときにはすでに息はなく、お医者さんにおじいさんの死を告げられたおばあさんは
「あら大変!どこを怪我したんですか?」
「入院するなら荷物を準備しなきゃ」
と現実を受け止められずにいたそうです。
お医者さんに説明をうけても近所の人に慰められても、お葬式の最中でさえおばあさんはポカンとしたままでした。
葬儀の途中で「あの、どなたが亡くなったんでしょうか。申し訳ないけど私ご香典を忘れて…」とあちこちの人に声をかけるおばあさんに、みんな涙を誘われつつ、少しの不気味さを覚えました。
そこからおばあさんの奇妙な行動が始まりました。
いつも通りのにこやかで優しいおばあさんはふたり分の食事をつくり、ふたり分の布団を干し、ふたり分の買い物をし、おじいさんが座っていた座布団にむかって話かけたり……とおじいさんが亡くなる前の日常を繰り返しているようでした。
近所のお坊さんが見かねて「あなたがおじいさんの冥福を願わなければ成仏できない」「この世にいない人を縛りつけてはいけない」と説得したところ、おばあさんはにっこりと笑い
「成仏なんかさせませんよ」
「私が死ぬその日まで側にいてもらいます」
とはっきり言ったそうです。
その後おばあさんは忽然とすがたを消しました。
親戚が施設に入れたとか自宅で亡くなったとか、交通事故の犯人に復讐しにいったとか様々な噂が立ちましたが、誰もおばあさんの行方を知る人はいませんでした。
いまはふたりで安らかに過ごせていると信じたいです。
わからずじまいでしたか。
おじいさんが亡くなる前から認知症を患っていたかも。