「おはよう」

友人Ａの職業は、始業も遅い代わりに終業も遅い仕事です。通勤ラッシュもすっかり落ちついた頃に家を出れば良いようで、いつも洗濯や掃除を済ませてから出勤していました。

ある日もいつものようにＡが洗濯物を外に干していると、どこからか必ず「おはよー」と声が聞こえるようになりました。
アパートの下の道を通る人だと思い気にせずにいましたが、不思議なことに気がつきました。

洗濯物を干す時間帯はいつもだいたい一緒とはいえ日によってバラバラなのに、その声は必ずＡがベランダに出た瞬間に聞こえるのです。

なんだか怖くなって翌日窓から顔だけを出してそっと辺りを見回すと、隣の部屋のベランダとの仕切りから男性がこちらを覗いていました。
そしていつもの「おはよー」という声。

Ａが声をあげて部屋の中に引っ込むと、それ以上は何も起きなかったそうです。

後日管理会社に注意をしてもらおうと電話をすると、状況を把握しようとすぐに会社の人が駆けつけてくれたそうです。

ところがＡから詳細を聞いた管理会社さんはなんだか腑に落ちない様子です。
隣に住んでいるのは若い女性だし、何より仕切りのすぐ側にエアコンの室外機があるため人間が立てるような隙間はないはずだと言うのです。

隣の部屋の人に話を聞いても知らないの一点張り、室外機やベランダを調べても誰かが上に乗ったり浸入した形跡はなかったそうです。

「人間なら警察に行けばいいけど、そうじゃないものはどうしたらいいの」と文句を言いながら、引っ越す資金もないＡはまだそのアパートに住んでいます。