増えるもの、減るもの
投稿者:いももち (40)
私が大学生の頃に住んでいたアパートは築20年ほどの木造、ユニットバス、駅から徒歩15分、周囲にコンビニなし、ただ家賃の安さだけが取り柄の学生向けアパートでした。
ある日の深夜、下の部屋からの物音で目が覚めました。その部屋に住んでいるのは同い年くらいの女性で、普段は静かに暮らしている人だったので不思議に思いました。
何の音だろうと耳を澄ませると「ガチャ、バタン」「ガチャ、バタン」と何度もドアを開け閉めしているようでした。
直接注意する勇気はありませんでしたが、何をしているのか気になって静かに外に出て階下をのぞきこんで硬直しました。
その部屋に住む女性がうつむきながら、ひたすら玄関のドアを大きく開けたり閉めたりすることを繰り返していました。
換気?虫か何かを追い出そうとしている?
と無理やり平和な理由を考えたくなるほどその行動は異様でした。
その時ふいに女性がこちらを向き、目があってしまいました。女性はぼんやりした笑顔で、
「ドアを開けると増えたり減ったりするんです」
と言って部屋の中に入っていきました。
私も自室に駆け戻りましたが、下の部屋にはあの女性がいるんだと思うと怖くて眠れないまま過ごしました。
その後もしばらくびくびくしながら過ごしていましたが、急にその女性は引っ越してしまいました。
女性には何がみえていたのでしょうか。
増えたり減ったりするものは、まだあの部屋にいるのでしょうか。それともどこか違う町の知らないアパートで増えたり減ったりしているのでしょうか。
何もわからず、何も知りたくない体験でした。
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