アパートの階段で…
投稿者:ぴ (414)
私は一時期、アパート暮らしをしていました。
最初は当時付き合っていた彼氏と一緒に住む予定で、このアパートを借りました。
同棲する予定でしたが、彼が仕事の転勤でよそに住むことになり、アパートの契約が終わっていたため仕方なく、そこで一人暮らしをすることになったのです。
二人で住む予定だったので、一人暮らしにしては広々としたアパートでした。
その分家賃は高かったけど、半分は一緒に住めなくなってしまった彼氏が申し訳ないからと支払ってくれて、おかげで私はとても割安な家賃で住むことができました。
住み心地のいいアパートでしたが、一つだけ嫌なことがあります。
それはエレベーターがなく、すべて階段を使って上り下りすることでした。
私は足腰を鍛えていなくて、この階段が大変きつかったです。
普通に上り下りするのも億劫なのに、スーパーでお買い物した後なんかは腰にきて、階段が地獄のように長く感じました。
こうして不満はありつつも、なんとかその階段にも慣れてきたときに、とある噂を聞いたのです。
それはアパートの階段で、同じアパートに住む人が体験した怖い話でした。
誰の話なのかまでは分からなかったのですが、又聞きした話だと階段を下りていたら、足の悪そうなおじいさんを見かけたのだそうです。
最初は普通に通りすぎたのですが、足を引きずりながら階段を上っていくおじいさんを見兼ねて、その人は手を差し伸べました。
その住人はおじいさんに付き添って、階段を昇って行ったそうです。
足が悪かったおじいさんのおかげでものすごく時間をかけましたが、なんとか部屋に辿り着きました。
おじいさんは深くおじぎしてお礼を言ったそうです。
おじいさんが部屋に入るのを見届けて、住人は再び上がってきた階段を下りていきました。
しかし、階段を途中まで下りかけて、住人はふと気づいたのです。
おじいさんが持っていた巾着袋を預かったまま、すっかり忘れていて返しそびれていたのに気づきました。
その人は慌てて階段を駆け上がり、おじいさんの部屋を訪ねました。
ピンポーンとチャイムを押したら中から20代くらいの女性が出てきました。
その人の孫かなにかと思って、さきほどのおじいさんの事情を話して巾着袋を預かったことを話しました。
けれど女性はピンときてないようで、警戒心の強い顔で言ったのです。
「うちじゃないです。
今日は部屋に誰も入れていないし、今私しかいません。
別の部屋と間違えてないですか?」とその人は言いました。
そしてその巾着袋も返されたのです。
どう思い出しても、おじいさんが入っていった部屋はその部屋で間違いなかったのです。
しかし、家主らしき女性にこのようにぴしゃりと言われてしまったらどうしようもありません。
その人は途方に暮れて、預かった巾着袋をどうしようかと思いました。
怖いです。ひきこまれました。