夜中の山中で人に会う
投稿者:紅沙羅 (1)
10年ほど前の話です。
当時の私はカメラに夢中でした。風景写真を撮ってはカメラ雑誌に応募していました。自分で言うのもなんですが、カメラの腕はなかなかのもので応募作品で銀賞を受賞したことがあります。
次に狙うのはもちろん金賞です。そして南アルプスから望む富士山の朝焼けを撮りに行くことに決めました。
早朝から出かけ、日中は南アルプスの風景を撮って回り、翌朝の撮影の構図もしっかりと抑えます。日が暮れる前に駐車場へ戻るとにぎわっていた駐車場は僕の車一台だけになっていました。
今夜は車中泊です。日が暮れるとあたり一面真っ暗。その代りに都会では見られない星空が広がっています。
夜も更けてきたのでそろそろ寝ようとするのですが、風の音、木々の揺れる音、虫の音が不気味でなりません。時折、獣がいるのかガサガサと闇の中から音がすると怖くなって寝ることができません。
カーステレオで音楽を流しても気を紛らわせることができなかったのですが、残業続きで疲れが溜まっていたこともあっていつの間にか眠りに落ちていました。
窓ガラスを叩く音で目が覚めます。
人影が見えます。ルームライトをつけると目の前には50代の男がいました。
「中にいれてくれませんか」男は話しかけてきます。
「道に迷ってしまいました」
黒いジャンパーに小さめのリュックを肩にかけていて、登山をするような姿ではありません。
恐怖のあまり声がでません。「殺される」そう思いました。
急いで車を出します。男が追いかけてくるのではないかとバックミラーを見ても真っ暗です。とにかく一刻もはやく山から離れたい一心で車を走らせます。心臓は張り裂けんばかりで、ハンドルを持つ手が震えているのがわかります。
山を下った頃には朝日が昇り始め、駅前のコンビニで車を停めます。したたり落ちるほど汗がびっしょりです。
窓ガラスに男が触った指痕があるのに気づき急いで拭き取ります。
「あの男は何者なのだろう?」
自殺しきれずさまよっていたのだろうか? それとも幽霊なのだろうか?
真夜中の山中で人に会うことなど考えてもいなかったことです。この恐怖は体験した者にしかわからないことでしょう。
それ以来僕は山に写真を撮りに行くのをやめました。
変なオジサンが。
確かに怖いな。
怖いけど、幽霊だったのか人間だったのか。
幽霊にも指紋はつけれないのでは?
普通の善良なおじさんだったとしたら助かると思った矢先に無言で立ち去られた時の絶望感すごそう
けいさつ事案すね。