痛いカップルの話
投稿者:ねこじろう (147)
そのカップルが店に訪れたのは、先週の日曜日のことだった。
あ、申し遅れたが、わたしは地方の駅前で小さな喫茶店を営む、しがない中年男性だ。
カラカラカラーンと小気味良い木製の扉が開くと、男女が入ってくる。
何かの祝い事の帰りだろうか。
二人とも紺のフォーマルなスーツを着ている。
そして女はなぜか、大きな人形を抱いていた。
二人はわたしの立っている正面のカウンターに座った。
女は膝上に大きな人形を座らせる
二人はコーヒーとアイスクリームを頼んだ。
わたしは、この二人の間の独特な空気感から単なる友人関係ではないことを感じた。
と同時にある種の違和感も、、
─それは、あまりに歳が離れているということ。
男は肌艶や体格から、20代後半くらいだろうか。
スリムな身体に紺のフォーマルなスーツが似合っている。
女も紺のワンピース姿なのだが少々下腹がだらしなくて、そしてショートのパサついた茶髪、濃い化粧、口元のほうれいせん、首筋の皺などから、どう鯖を読んでも60歳は超えているようだ。
膝に座る人形は腹話術で使用するような大きなもので、きちんと背広を着ており、青のストライプのネクタイまで絞めている。
ドングリのような大きな目で、きょとんと前を見ていた。
この二人、、、
いわゆる「逆歳の差カップル」というやつだろうか。
女は目尻の皺にさらに皺を寄せて意味深な笑みを浮かべながら、わたしに尋ねる。
「ねぇ、マスター、マスターは独身なの?」
あまりに明け透けな質問に少々面食らいながら、
「ええ、まあ、、、」と、曖昧に答える。
「じゃあ、彼女とか、いるんでしょ」
「ええ、まあ、、、」
「わたしとタカシは明日で、交際6年目になるの」
「ほう、それはおめでとうございます」
型通りの賛辞を添えた。
「そして今日は、このタロウの三歳の祈願のために、この近くの神社に行ってきて帰るところなの
ね。
タロウ、おめでとう!
ママもパパもあなたのこと、ずっとずっと愛してるからね」
いろんな意味で痛いカップル。
タカシとタロウ何度も混同してしまった。