「コーヒー淹れて」
投稿者:ぴ (414)
私の職場には、いつも明るい満子さんというおばさんの職員がいました。
すごく声が大きくて、みんなからたまに「うるさい」と文句を言われるほどです。
でもそのおばさんがいないと寂しいと思うときもあるくらいに馴染んでいて、私は好きでした。
その人とは長年一緒に働いており、よくお昼休みにコーヒーを入れてあげていました。
その満子さんが急に父が危篤になったからと仕事を休んだ日があったのです。
私は普段と変わらず事務の仕事をして、そして昼休みに一人で休憩所にいました。
そしたら急に休憩所の扉の向こうから「コーヒー淹れて」といういつもの元気な声が聞こえたのでした。
私は満子さんが帰ってきたと思って、コーヒーを淹れてあげました。
なのにぜんぜん部屋に入ってこなくて、不思議に思って自分から開けて近くを見回したのです。
しかし、そこには誰もいなかったのでした。
私は気味が悪いなと思いながら、その話を職場の人にしました。
そしたら「気のせいじゃろ」と言われました。
まあ仕事で疲れていたんだろうと思って、私は仕事を終えて帰ったのですが、翌日驚く話を聞いたのです。
それはあの満子さんが事故で亡くなったという衝撃的な話でした。
危篤の父のために車で病院に向かっているときに不運にも交通事故にあったらしいです。
そしてその人は帰らぬ人となりました。
事故は大きなものだったらしく、病院で息を引き取ったと聞きます。
そして図らずしもその事故で亡くなった時間が私がおばさんの最後の声を聞いた時間だったのです。
きっとおばさんは私に最後の挨拶がしたかったんじゃないかと思っています。
「コーヒー淹れて」のあの明るい大きな声を聞けなくなったことが寂しいです。
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