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グロリアさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

大学の地下書庫の話
長編 2022/08/20 23:33 2,770view
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大学生の頃、自分の所属している学科とは全く違うこと、ありていに言ってしまえば地方の怖い話、それも他の人が知らないようなものを探していた時期があった。そういった学科なら他の人から話を聞けるだろうが、大学の勉強やらテストの準備やら、論文を書く必要があるのならまた話は別で、バイトも入ってくるととてもじゃないが趣味に裂ける時間なんてほんの少しだ。

さすがに携帯で読める怖い話で満足していた自分は、論文の資料を探すために図書館へと向かったときに怖い本なんて置いてないよなーと改めて思ったことがある。

高校生の頃は図書館にこんなものまで置いてあるのかよと言う疑問を持つものもあったものだが、大学の図書館はありていに言えばつまらない学術書ばっかりだった。専門家が読むようなものばかりで、わざわざ借りたいとも思わないぐらいに不勉強であった私だが、単位を落として地獄を見たという先輩の言葉に震えあがって大学だけは何としてでも卒業しようと当時は頑張っていた。

頑張っていたら結果が伴うわけでもなく、たいして知りたい分野でもないとなるとちっとも、勉強に身が入らない。友達と一緒にいればそれは顕著であり、一人になれる図書館に行くしかなかった。ただ、あいにくと図書館にも人はいるもので、司書さんと話をしていくうちに仲良くなり、一緒に本の購入に行ってみないかと誘われるほどになれたものだ。

「怖い本とかって、おいてないんですかねー」

季節は夏で、テストも近い。大学二年生の夏にそんなことを司書さんにうっかりきいたもんだ。お堅い司書さんが話に合わせてくれていたのはこれまで俺がまじめな感じの学生だったからだとおもってほんのちょっとだけ、しまったなと思っていたりする。

「怖い本?」

「あ、えっと・・・」

遊びで聞いたわけじゃないんだと伝えるよりも先に、司書さんが一人で納得してくれた。

「民間伝承みたいなやつね」

「あ、はい」

「民俗学だっけ」

「その、そこまで詳しくないです」

「柳田さんとかだねー。あるよ」

旨い具合に話が進んでくれてほっとし、司書さんがどうだったかなーと考えて、地下にあるんだよねと言ってくれた。私の通っていた大学の地下は蔵書がすごく、用もなく入れば何のために入ったのか面倒になること請け合いの構造だった。地下数階あるというだけでも信じられず、日本の大学のあちらこちらにもそんなものがあるのかと思うとぞっとしたものである。

場所を教えてもらい、地下三階へと向かう。より使わないものはどんどん下に送られていくそうで、そこには過去の論文もあるらしい。廃れた病院のようなコンクリの階段を一人で降りていくのは非常に怖く、ライトはあってもぼんやりとしたもの。

そこまでして怖い話を、ちょっとした好奇心だけを満たしに行くのはどうしたものかと考えながらも、ああいったからにはいくしかない。本を持ってこなかったら司書さんにもあまり良く思われないかもと弱気なことを考えて、階段を下りて行った。

案の定、使われていないところは若干のライトでしか照らされておらず、足元に不安を覚える光量で歩いていく。思った以上に棚と棚の間は狭く、壁に至ってはハンドルを回さないと棚の間に入れないのだ。

怖い話のある区画、とはいってもやっぱり専門書だったり、入門書だったりといったものばかりでぺらぺらめくって中身を確認していっても暗いこともあって近くの机に持っていって光で照らさねばきちんと読めない。

「おっと」

ふらっとしたところで後ろの棚に当たり、乱雑に積まれていたのか本が落ちた。それを拾ったところで俺は思いっきりしりもちをついた。

「うぁぁ・・・」

背の低い本の向こう側に、人間の足が見えたのだ。それはもうかなりの驚きようだった。周りに人がいたのなら、俺のところに来てくれていただろう。図書館の地下に来るような本好きのいない時間帯なのか、はたまたみんな上にいるのか、幸か不幸か、私一人だったのだ。

自分が叫んだことに冷静になってから気づき、自分の視線の先にあった人間の足が、正確に言うのなら紐の革靴の足はいなくなっていた。

背筋がぞぞぞとなり、はぁはぁいいながら立ち上がったのは生まれて初めての経験だった。落とした本も区画が区画だけに、このタイミングで絶対に見たくないたぐいのもの。絵巻に書かれているおどろおどろしい妖怪の本だった。

悩んだ末に適当な本を借りていくしかないと判断した。正直言って、この後も講義がある。震えた状態を何とかしないといけないし、落ち着ける場所に行きたくて仕方がない。

何より、今後自分に何かが起きるんじゃないのかという気持ちでいっぱいだった。もう、適当な本を手に取って外に出るしかない。まずはこれから読んでみようかと思いますと、司書さんにも言っておけば相手も深く立ち入ってきたりはしないもんだ。

臆病風に吹かれて、とはいっても自分の見間違いの可能性が高いと考えて地上へと向かう。踊り場の向こう側、上から何かが転がってくるんじゃないかという妄想は震えを呼び、地上への階段が非常に長く感じた。

何より足が、増えて動かない。何かにつかまれている気がしてならないし、私が降りていく際には感じない気配がついてきているのだ。手すりにつかまってあるけばいい、それだけを考えればいいと心で呟いてどうにかこうにか、地上へと戻ってきた。

30分も経っていたことに、後で気づいた。そんなはずはないのだが、もしかしたら気絶していたのかもしれない。

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