いきなり聞こえた赤ん坊の声

これは私が仕事中に体験した話です。

当時私は古着屋の買い取りの仕事をしていました。

まわりには４～５人のスタッフがいて、私は1人のスタッフと大きなテーブルを挟んで向かい合う形で、少しお喋りをしながらの仕事をしていました。

すると突然、一切の音が聞こえなくなりました。

眩暈を起こしかけているのかと思い、私はテーブルに手をつき、顔を上げて話していたスタッフに説明をしようとしました。

次瞬間、私は顔のまわりにいた何人もの赤ん坊の口を押し付けられ、大泣きされているかのような泣き声に包まれたのです。

あまりの音量に耳を塞いで青ざめる私の異変に、前で作業をしていたスタッフが気づいてくれ、急いで私のいる方へ回り込み、「どうしたの」と体に触れてくれました。

それが合図になったように、赤ん坊の声の大合唱はおさまりました。

まわりを見渡す私の様子に、周りにいた他のスタッフたちも仕事の手を止めてこちらを見ていました。

私は赤ん坊の声のことを話しましたが、私以外の誰の耳にもその泣き声は全く聞こえていなかったそうです。騒音らしい音もしてはいなかったと聞きました。

泣き声を聞いていた時間は一分にも満たない間でしたが、その音量も、泣き声の圧力も、鮮明に体に蘇らすことが出来ます。

いったい私の耳に聞こえた赤ん坊達の泣き声はなんだったのか、今も時々考えています。